僕は漫画を描きながら、よく音楽を聴くんです。あるシーンを描くときに、頭の中で音楽が流れている。たぶん映画を作る感覚に近いんじゃないかなと思うんです。映画監督になりたかった時期もずいぶんあって、でも漫画で同じような作業ができているので、いまはこの職業に満足しています。

 モリコーネのメロディーは、意外と闘いのシーンを描いているときに頭の中で流れていることが多いかな。あとはやっぱりラブストーリーですね。『島耕作』より断然『黄昏流星群』。ロマンチックなシーンや切ないシーンのバックには、実はモリコーネの音楽が流れているんです。

■「家族を大切にし、誠実に生きた。父も同じだったな」

平原綾香さん
平原綾香さん

シンガー・ソングライター 平原綾香さん

 映画が始まって5分で泣いてしまいました。譜面に埋もれた仕事場で彼がたった一人、指揮をする姿に感極まってしまった。2021年に父(サックスプレーヤーの平原まことさん・享年69)を亡くしたばかりなので、父の姿もどこか重ねて見ていたのかもしれません。おじいちゃんになるまで、サックスを吹いていてほしかったな、と。

 最初にモリコーネの音楽に触れたのも、父からなんです。5歳のころ「ニュー・シネマ・パラダイス」の曲をサックスで吹くのを聴いて「なんていい曲なんだろう!」と恋に落ちました。10代のころは映画「海の上のピアニスト」のサウンドトラックをすり切れるほど聴きました。そのなかの「愛を奏でて」という曲に、いずれ日本語の歌詞をつけて歌ってみたい。

 彼の音楽の魅力はメロディーとオーケストレーション(オーケストラ用の編曲)が運命的な出合いをしているところです。どんなにメロディーがよくてもオーケストレーションが悪いとうまく伝わらない。彼はどちらも素晴らしく、それが「泣ける音」を生み出している。本作で彼の音楽への誠実な向き合い方や、奥様をとても大切にされていたことを知り、それも彼の音楽の素晴らしさの理由だとわかりました。

次のページ