春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「サッカー」。

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 イーロン・マスクがブイブイ言わせたり、中条きよしが国会でディナーショーの宣伝をしたりしている今日この頃、間もなくサッカーW杯が始まるらしい(11月16日現在)。私は「もりやす」と聞くとトキワ荘出身の漫画家・森安なおや先生しか頭に浮かばないくらいのサッカー知らず。キャバキャバ!(森安氏の笑い声)。「W杯」で検索すると「W杯 盛り上がってない」が予測検索の上位に。そうなの?高座から「W杯、始まりますねぇ」と言っても寄席のお客さんはポカン。好きな人は好き、そうでない人はまるで無関心……どうもサッカーはそんなジャンルになりかけている。それじゃ、まるで落語と同じじゃないか。サッカー、大丈夫か? すると、私の頭の中のイーロン・マスクが「サッカー、買っちゃおっかなー? 大鉈、振るっちゃおうかなー?」とニヤついています……。

 あ、とうとう私の頭の中のイーロンが『サッカー』をホクホク顔で買い叩いてきました。アホな子どもの様にはしゃぎっぱなし。イーロン「改革だよ、改革っ! そもそもサッカーって長くて観てらんないんだよ。5分5ラウンドでどうだい?」私「そんな短時間じゃ得点が入らないって!」イ「じゃ、ボールを5個にして、ゴール幅を20メートルにしろ!」私「乱暴な!」イ「これならバンバン得点入るし!! 人数も11対11ってどうして? 同じ数じゃなきゃいけないのか? 試合前にルーレットで決めたらいいよ。1人対30人みたいな試合もあったら最高!」私「30が絶対勝つでしょ?」イ「分かんねえだろ? じゃフィールドをシーソーみたいに時々ギッタンバッコンしろよ。ハンデになるんじゃね? 芝生じゃなくて、熱々の鉄板にして選手はみんな裸足!!」私「正気ですか!?」イ「正気だよ! 観たくないか、そんなサッカー!」私「……ちょっと観たいけど」イ「野犬や毒蛇を放したりしてな!」私「噛まれたら死にますよ!」イ「W杯なんだよ!そんなことで死んでどーするよ! 身体を仕上げてこいって! そもそもゴール数だけ競うのもなんだかな。芸術点があってもいいんじゃねえか?」私「審査員が要りますね?」イ「そうだね。淡谷先生はマストだな」私「もう居ませんよ!」イ「そうなの? じゃ生田悦子さんは?」私「生田さんもお亡くなりに……」イ「……そもそも手を使わないって何よ?」私「いや、そこがサッカーですから」イ「ユーロビート流して、その間だけハッスルタイムとして『ハンドあり』にしようっ!」私「……観たいかも」イ「オフサイドってなんだ?」私「今さら何を……オフサイド、無くしますか?」イ「いや……『オフサイド』って響きがカッコいいから、それは残す!!」私「えーっ!?」……なんてね。こんなふうにしかサッカーを素材にできない己が情けない。とりあえずガンバレ! ニッポンとツイッターの中の人たち。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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