撮影/写真映像部・高野楓菜 ヘアメイク/面下伸一(FACCIA) スタイリスト/山下友子
撮影/写真映像部・高野楓菜 ヘアメイク/面下伸一(FACCIA) スタイリスト/山下友子

 ところが去年、外部のプロデュース公演に呼ばれ、矢島弘一さんと「2つの『ヒ』キゲキ」という舞台を書き下ろした。それぞれが書いた脚本が、1幕と2幕で一つの作品として上演されるというユニークな試み。水野さんの中で久しぶりに体の中で「書く」という感覚が呼び覚まされた。

「おかげさまで舞台の評判もよかったですし、私自身も楽しかった。そのときにつくづく『脚本って、書き続けないと書けなくなっちゃうんだよなぁ』と思い知ったので、来年こそは、『プロペラ犬』で公演をしよう!と」

 子供も保育園から幼稚園へと変わるタイミングで、前よりは、少し手がかからなくなっていた。コロナ禍で、演劇のあり方も変化していく中で、2.5次元というジャンルが台頭していることも、水野さんのアンテナに引っかかった。“今”を反映できるのが演劇の面白さだ。今を生きる自分たちが肌で感じる不穏な空気や怒り、不安、喜びや希望といった言語化できない感覚を、お客さんと共有できないだろうか──。そうして、ダンスや歌も取り入れて描くダークファンタジーへの挑戦を決めた。タイトルは「僕だけが正常な世界」。

「もともと、人間にすごく興味があって、本を読んでいても、『どうしてこの人はこういう立場があるのに、こんな事件を起こしたんだろう?』とか、事件がどう解決されたかよりも、その事件にまつわる人の心情が知りたかった。その延長線上で、脚本を書くときも、できるだけ人間のことを深く掘り下げたいと思っているんです」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2022年11月18日号より抜粋