フォミチョヴァ・クセニアさん(撮影・松岡瑛理)
フォミチョヴァ・クセニアさん(撮影・松岡瑛理)

「今回限りで終わらないで」「これからもウクライナのことを応援してほしい」――。

【写真】砲撃を受けたウクライナの航空宇宙大学の様子はこちら

 これらは今年、山梨大学がウクライナの大学に向けて行ったオンラインコースの授業(教育支援プロジェクト)の修了式で、受講生から寄せられた感想の一部だ。

 2022年2月に始まったロシアによる侵攻は、ウクライナ国内の教育に深刻な影響を及ぼしている。9月1日付のロイター通信の記事によれば、国内で2300カ所近くの教育施設が砲撃や爆撃を受けた。そのうち、完全に破壊された施設は286にのぼるという。

 安全に学ぶことがままならないウクライナの学生に向け、国内でいち早く支援を行ったのが、甲府市に本部を置く山梨大学だ。オンライン授業の配信が学内で決まったのは3月半ば。その後、数週間で配信体制を整え、1カ月後の4月15日にはオリエンテーション回の授業を配信した。独自の支援が短期間で実現した背景には、同大で働く一人のウクライナ人女性の存在が関わっている。

 名前は、フォミチョヴァ・クセニアさん(40)。ロシアと国境を接し、ウクライナ第2の都市であるハルキウで生まれ育った。ハルキウ州にある国立航空宇宙大学を卒業した後、同大での勤務を経て06年、日本人男性との結婚を機に来日。山梨大学の大学院で博士号を取得した。現在は同大大学院にある教育マネジメント室に勤務している。

 母国で戦争が起きることをクセニアさんが知ったのは、今年2月、プーチン大統領がテレビ演説で「特別軍事作戦」の実施を発表する直前のこと。友人から「プーチン大統領がウクライナを攻撃する。あなたの両親は大丈夫か?」とメールが届いたことがきっかけだった。数時間後にはロシア軍の戦車がハルキウ州に侵入し、本当に戦争が始まったことを実感したという。

 現在は朝起きると、家族に安否確認の連絡を入れるところから一日が始まる。無事がわかれば「今日はどこに爆弾が当たったのか」と聞く。「国内の状況を気にし始めると、どこまでも不安になってしまう。精神的におかしくならないよう気を付けています」とクセニアさんは言う。

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約1カ月でオンライン授業を準備