ブレイディみかこ(Brady Mikako)/ 1965年、福岡県生まれ。96年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞、19年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞などを受賞。著書多数。
ブレイディみかこ(Brady Mikako)/ 1965年、福岡県生まれ。96年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争』で新潮ドキュメント賞、19年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞などを受賞。著書多数。

 シリーズ累計100万部を突破した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』では家族の体験を通してイギリスの学校や教育を描いた。新刊『両手にトカレフ』(ポプラ社 1650円・税込み)は同じ荒れた地区にある中学校を舞台にした小説だ。発端は『ぼくイエ』を読んだ中学生の息子から「これは半分、嘘じゃないか」と著者のブレイディみかこさんが言われたこと。

「息子の言葉がグサッと刺さりました。イギリスの学校の希望の物語みたいになっているけど、その陰にはクラブ活動すらできない子たちがいる。喉越しのいいエッセイにするために、彼らを書かずに見えない存在にしたのでは、という罪悪感がありました」

 衣食にも不自由し、親の代わりに家事、育児をする子どもたち。無料託児所の保育士をしていたブレイディさんは、もちろん彼らの存在を知っていた。ただ、プライバシーの問題もありノンフィクションでは書けない。そこで自分の知っている子どもたちのエッセンスを登場人物に入れて小説で描いた。

「複数の出版社の方から、貧困色を薄めて読みやすいものをと言われてきたし、日本の人は暗い話は読みたくないという。でも今回は1行目から『ミアはお腹が空いていた』。貧困を書くよ、とけんかを売っているんですよ」

 14歳のミアはドラッグに依存する母親に代わって弟の世話をしながら学校に通っている。

「私も10代のとき貧困家庭にいたから、ミアのキャラクターは当時の自分に近い。書いていてどんどん出てきたのは当時の記憶。もしかしたら自伝に近いのかも」

 高校は福岡の進学校だった。金がかかると親に反対され、通学のバス代をアルバイトで賄う約束をした。スーパーのレジ打ちのバイトがばれて教師に理由を問われた。バス代のためと答えたら、そんな家庭が今どきあるわけないと言われた。

「貧困が理由でバイトしてる子が目の前にいるのに、いないことにされた。私はここにいてはいけないのだと感じましたね」

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