早川千絵監督=2022年5月20日、フランス・カンヌ
早川千絵監督=2022年5月20日、フランス・カンヌ

 2022年カンヌ国際映画祭に出品した『PLAN 75』が、カメラドール特別表彰に選ばれた早川千絵監督。初めてカンヌに訪れた時のことや、これまでの歩みなどについて語った。

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 カンヌ映画祭ある視点部門に『PLAN 75』がエントリー、初長編作に授与されるカメラドール特別表彰に選ばれた早川千絵監督。今や時の人となった。8年前、ENBUゼミナールの卒業作品『ナイアガラ』が、カンヌ映画祭の学生映画部門シネフォンダシオンで上映され、初めてカンヌの土を踏んだ。

「前回来た時は、プロデューサーもおらず、出演者の若い3人とカンヌの街に着いたものの、どこが映画祭の会場なのかもわからず焦ったり。初めての体験ばかりで毎日新鮮でした」と笑いながら当時を振り返る。「今回は多くの仲間と来られてすごく嬉しいです」。上映は1068人収容の大劇場で行われた。

「ドビュッシー・シアターという音響が良い最高の環境で本作を観られて、感無量でした。なによりも出演者やスタッフと一緒にその場に立ち会えたことが幸せで。倍賞さんは、映画祭は若い人に任せたとおっしゃりカンヌ入りされなかったのですが、倍賞さんのことを思いながら映画を見ていたので、上映後すぐにでも電話して倍賞さんの声が聞きたくなりました」

 「プラン75」という、75歳以上の高齢者が自ら死を選択できる制度が施行された日本の近未来が設定。女性高齢者が主人公でシリアスなテーマだけに制作は簡単ではなかった。最初に海外ではフランスのパートナー会社が見つかった。最終的に、映画に深い理解を示してくれた日本のパートナーが賛同し、ファイナンスが整い、今回の成功を導いた。「企画の立ち上げ当初から関わってくれた水野詠子さんとジェイソン・グレイさんという日本の2人のプロデューサーの存在が大きかったです。この作品を信じ、脚本つくりからパートナー探しまで妥協せず、最初から最後まで伴走してくれました」

 撮影は100%日本、編集や仕上げの作業はフランスで行った。

「編集に関しては言語の問題が壁になるのではないかという心配はありましたが、実際に作業を始めるとその不安は消え去りました。映画言語は世界共通なんだなと。編集を手掛けたアン・クロッツの才能には惚れ惚れしました」

 海外でやったことで映画づくりの可能性が広がったとも実感している。

「世界基準の映画を目指したいと言う気持ちがあったので、フランスのスタッフと仕事ができたことは大きな学びとなりました。音楽のレミ・ブーバルやサウンドデザイナーのフィリップ・グリベルとのコラボレーションも素晴らしい体験でした。海外の才能と出会うことで、映画の可能性が大きく広がることを知りました」

 世界中の映画評論家が集結する映画祭。ここでの反応について「10人が観て全員が面白いと感じる作品ではないかもしれませんが、そのうちの数人の心には深く響く作品ではないかと思っています。上映後に熱い感想を伝えに来てくださった人がいてとても嬉しかったです」と語る。

 ある視点部門は、最高賞パルムドールを競うコンペ部門の予備軍的な部門。名監督が歩んできた道だ。

「なぜ選ばれたのか理由はわかりませんが、弱者が排除される傾向は世界でも強くなっており、その危機感が共有されたのかもしれません。また、コロナが続いているなか、世界中で人間の生死や尊厳について考える人が多かったのではないかと推察します」

『PLAN 75』の公式上映で会見に臨む(左から)磯村勇斗さん、早川千絵監督、ステファニー・アリアンさん。『PLAN 75』新宿ピカデリーほか全国公開中
『PLAN 75』の公式上映で会見に臨む(左から)磯村勇斗さん、早川千絵監督、ステファニー・アリアンさん。『PLAN 75』新宿ピカデリーほか全国公開中

(高野裕子)