そう言いながら、芝居が好きで好きでたまらないというその情熱を全身にみなぎらせる。ただ、突き詰めすぎる性格ゆえ、役にアプローチしていく途中で、「どうしてこんなに苦しまなければならないんだろう?」と、袋小路に入り込んでしまうこともなくはない。

「そういうときは、まだお芝居をやっていなかった頃の自分を思い出します。福岡の映画館で映画を観ていたとき、登場人物がもがいて、苦しんでいる、その姿に感情移入することで、自分が救われた経験があるので……。東京に出てから舞台を観るようになると、舞台の登場人物はドラマや映画以上に過酷な境遇を生きているのがわかって、自分の悩みなんて、なんてちっぽけ、と思えたりする。せっかくこういう仕事に就けたのだから、私も、自分が助けられたことの何分の一でも、お芝居でお返ししたいです」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2022年5月20日号より抜粋