古賀茂明氏
古賀茂明氏

 3月28日の欧州為替市場で、1ドル=125円台という6年7カ月ぶりの安値が記録された。その後もかなりの円安水準が続いている。

 政府や日銀は、円安は良いことだと言ってきた。円安で輸出企業やその関連企業が儲かる。それらの企業の設備投資が増えてその効果は国内に広がり、賃金も上がって消費も増えれば景気全体が良くなる。政府の税収も増えて財政再建にも貢献。バラ色のストーリーだ。

 しかし、今は円安で大変だという論調ばかり。なぜなのか?

 まず、原油価格の水準。6年前にはニューヨーク原油の相場が1バレル30ドルを切るほどの安値だったから、円安でも原油輸入代金増加はさほど気にならず、貿易収支も黒字だった。だが、現在、原油は100ドルを超え、円安で海外への支払いは大きく増える。一方で、輸出は、工場の海外移転などもあり、円安で大きくは増えず、差し引きでは、円安によって、日本から海外に支払う金額が増えて、貿易収支は赤字となり、国富が流出して行く。

 原油以外の資源価格や食料などの国際価格も高騰しているので、そこに円安が加われば、輸入代金の支払い額が増えるので、そのためにドルを買う実需が増えてさらに円安要因となるという悪循環も止まらない。

 輸入物価の上昇で国内物価も上昇。ガソリンから始まり電力・ガス料金に波及し、食料品などの値上げも日々実感する。

 物価上昇を超える賃上げがあればよいが、安倍政権以降、実質賃金は下がったまま。今年の春闘では「満額回答」が続出したが、これは大企業と豊かな正社員の話に過ぎない。庶民の方は、時給が多少上がるだろうがこれまでのマイナスを取り戻すようなことは起きない。その結果、物価上昇に耐えられない消費者の節約強化で景気は悪化する。

 円安政策を止められればよいのだが、実は、それがもうできなくなってしまった。円安を進める最大の要因が金利である。日本は低金利政策を続けるが、米国はじめ諸外国は、物価上昇防止のために金融引き締めに入った。金利の高いドルで運用した方が円で運用するより得だから、市場では円を売ってドルに換える動きが強まり、円安が進む。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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日本が金利を上げられない理由