中村ゆりさん
中村ゆりさん

 アイドルから女優へ。苦しかった10代を過ぎ、芝居に出会うことで、自分の正義感を目覚めさせることができた俳優・中村ゆりさん。40歳を迎えようとする今、心の充実を求め、新たな作品と格闘を続ける。

【写真】山田孝之さんと共演した際の中村ゆりさん

前編/中村ゆり“アイドル時代”に自問自答 「この先何ができる?」苦悩した過去も】より続く

 今やメジャー作品で引っ張りだこの中村倫也さんが、まだ映像で注目される前に、1950年代のイギリスを舞台にした「怒りをこめてふり返れ」という舞台で主演をしていたことがある。登場人物が5人だけの会話劇で、彼女もまた、大きな闇を抱えた難役をとてもナチュラルに、リアリティーを持って演じていた。洗濯物にアイロンをかけたり畳んだりするその日常的な作業の中にも、きちんとキャラクターを映し出していたのが印象的だった。名優・樹木希林さんは「芝居でいちばん難しいのは、怒ったり泣いたりすることじゃなく、日常の何気ないしぐさを当たり前のようにしながらセリフを言うこと」と話していたことがあるが、中村さんの佇まいはまさに、役が今そこに生きているという存在感があった。

「『怒りをこめて~』のとき、私の役は客席に背中を向けることが多かったと思うんです。常に観客に正面を向いてセリフを話さなくても、あえて見せないことで、『今どんな顔をしているんだろう?』と想像してもらう面白さもあると思います。ありふれた生活がそのまま切り取られたように見えるほうが好きで。演出の千葉(哲也)さんも同じ考えでした」

 今取り組んでいる舞台は「広島ジャンゴ2022」。広島の牡蠣工場に勤める人々が、ある日突然ワンマン町長が牛耳る西部の町「ヒロシマ」で、町の騒動に巻き込まれていくという、蓬莱竜太さんによるエンターテインメント活劇だ。

「現代が突然、西部劇に変わってしまうというファンタジーですが、そこに、さまざまな社会問題が映し出されます。世の中を支配する社会の構造や、家族の形など、メッセージがたくさん含まれている。蓬莱竜太さんの作品は、心をえぐられるような感覚になることも多くて、毎回ヒリヒリしますが、ただそれぞれの人間に対する視線はいつもとても優しいんです。エンタメとしても楽しめる作品ですが、実はすごく切実な人々の生活を描いているので、繊細に、ディテールを積み上げていきたいです」

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