昔ながらの八百屋は、後継者不足や大型スーパーの進出で激減している。いまは青果物がネット通販でも手に入る。そんな時代に都心へ出店し、対面販売で人気を集める八百屋がある。
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名古屋市のシンボルの一つがテレビ塔。その真下あたりの地下街がセントラルパーク(名古屋市中区錦)。おしゃれなブティックなどが並ぶ。そんな場所に、八百屋が出店して人気を集めている。
岐阜市中央卸売市場の青果仲卸が2020年11月にオープンした「カネ井青果」だ。カネ井青果は38坪の店舗で月4千万円以上も売り上げるという。出店のきっかけはセントラルパーク側の誘いだった。カネ井青果の藤井雅人社長は当時をこう振り返る。
「最初に見に行ったとき、100%売れないと思った。こんなところで青果物をと思ったが、やってみなければわからないと思い挑戦した」
店舗にはスタッフが作業できるバックヤードがない。作業はすべて店舗内でお客さんの顔を見ながら。お客さんは、これはどうやって食べればいいのと気軽に聞け、スタッフはすぐ答えることができる。スタッフからは、「今日はいいものが入っていますよ」とも伝えられる。対面販売ならではの強みだ。
本業が仲卸のカネ井青果の顧客はスーパーなどが90%以上を占める。スーパーとの競合を避けながら、JR側から誘われた岐阜駅や大垣駅などにも八百屋を出店してきた。いずれも人気だという。
プロの仲卸が運営する八百屋ならではのこだわりがある。
「品ぞろえではなく、自分たちがいいと思ったものを売る。値段にこだわらず、鮮度と味、品質にとことんこだわる」(藤井さん)
素人は、青果物を売れないという。青果物は日々、相場や品質、味も変わる。青果物を毎日扱っている仲卸としての知識や経験、目利きを生かしてこそ、お客さんに適切なアドバイスができる。
藤井さんは「産地や生産者ありきで、そのつながりがなくてはならない」と強調する。仲卸に小売部門があることで、産地や生産者をアピールする場となり、産地や生産者と良好な関係を築ければいいと考えている。