出井:私もそう思います。ところで、この先人々の健康寿命が延びていくとしたら、働く人々の意識も変えなくてはいけないでしょうね。日本は何につけても、年齢のことを言いすぎます。元にあるのは年功序列だと思うんです。年齢という基準で、企業の役職や給料などがほとんど決まってしまう。転職が不利になる退職金制度のために、他にやりたいことがあっても転職を選ばない人がいる一方で、やり続けたい仕事をやっていても、60歳や65歳で定年になったら一斉に退職させる仕組みを変えるべきだと思います。終身雇用や年功序列を会社は変えていく方向になるでしょうし、個人も個々で自分の人生を考えていかなくてはなりません。政府も、変革を推進するために年金制度や退職金制度を根本的に見直す必要があると思います。

今井:アメリカにいると、ほんとに年齢のことを考えなくなります。研究室のメンバーの年齢もほとんど知らないです。

出井:そんなふうにみんな年齢を気にしない社会が来るといいと思いますよ。健康寿命が延びて100歳、120歳の現役ビジネスパーソンが出てくるようになれば、もう自分の年齢も人の年齢も、誰も気にしていられなくなるでしょうね。

今井:加えて、年をとっても何が何でも同じ地位にいないといけないというのではなく、これまで培った技術や経験を若い世代に託すという考えを持っていただかないと、高齢化社会は回っていきません。そう考えると、ご自身の経験をもとに若い起業家らを手助けするお仕事をされている出井さんの働き方は、新しい時代のモデルになります。

出井:私は、「仕事を続けるモチベーションの源泉は?」と聞かれたら、「生きているから」と答えるんです。そもそも仕事をしているという感覚もありません。とにかく色々なことに興味があるだけ。この年齢まで、引退しようと思ったことは一度もありません。大きな会社の社長は、もうやりたくないですが(笑)。

今井:実は、興味を持ち続けることは抗老化のためにも大事なんですよ。私のラボの大学院生が研究しているのですが、マウスにもモチベーションというのがありまして。

出井:マウスが回し車を回すにも、モチベーションがあるんですね。

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