アトリエの中で絵を描くために立ったり、しゃがんだりが、今できる運動です。無理に散歩したりすると、ヘトヘトです。この間の展覧会などは人が沢山いるので、なんとなく気取って若々しく見せるように努力していますが、本当は車椅子で展覧会場を見物したいところです。だから必要以上の無理はしないようにしています。少し気を抜くと新たな病気を誘発するかも知れないので、体力に似合った日々の行動をしています。

 子供の頃、家におじいさんがいて、ある日ころんと82歳で亡くなり、この82歳という年齢に驚いたものですが、僕はおじいさんの年齢より3歳も年上になっています。子供の頃から虚弱体質で通っていたのに、今の年齢なんて、他人の身体を生きているような気がして、どう考えても、「これが自分」だなんて信じられません。かつて3人の占い師から、口を揃えて寿命は50歳と宣告されていましたので、それ以後は、まるで他人を生きているような奇蹟を感じます。

 運命に従った生き方の結果が現在の自分です。もう絵が描ける年齢ではないのに、不思議と描いています。とっくの昔に絵など飽きて、惰性で描いているような気がします。描こうと思えばなんぼでも描けますが、これとて嫌々なんぼでも描いているので、実に変なものです。絵は好きでないと描けないと思っていたのに、嫌いでも描けるということは一体どういうことでしょ。自分でもようわかりませんけど。では、また来週。

◆瀬戸内寂聴「横尾さんのカッコよさ、瀬戸内さんのカワイさ」

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。単行本「往復書簡 老親友のナイショ文」(朝日新聞出版、税込み1760円)が発売中。

 今回も、横尾さんの指名もあって、瀬戸内寂聴さんに代わり、編集担当(担編)の鮎川が担当します。

 さて、今回、横尾さんはご自身の健康法について紹介しています。

 葛根湯を飲む、うんと厚着をして、熱いうどんを食べて、身体全体から汗を流す、布団にもぐって何もしない……。

 自分が昔からやっていることと同じで、間違いなかったと安心しつつ、同じ思考だったことに喜びを感じたりしました。でも、風邪は引かないに限ります。

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