横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った99歳と85歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。今回は寂聴さんに代わり、担当編集が横尾さんへ返事を書く。

【瀬戸内寂聴さんの写真はこちら】

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◆横尾忠則「運命に従った生き方の結果が現在の自分です」

 セトウチさん

 季節の変り目は体調を崩します。僕は喘息持ちなので秋から冬に移る頃、丁度今の時節が一番ヤバイんです。だから今年は少し先き廻りして、医者から吸入器を処方してもらって、それを一カ月近く使用しました。そのせいか、咽(のど)に異変を感じていましたが、なんとなく撃退したかなと思っています。

 老齢になると、ちょっとしたことで風邪を引きます。「怪しいな?」と思ったら即葛根湯を飲みます。葛根湯は無数にある漢方の中で、その順位はNo.1です。飲むと身体が急にあったまって風邪の兆候はすぐ退治できます。だから僕はいつも葛根湯を常備しています。でも一旦風邪を引いてしまうと、いくら葛根湯でも効力を失います。引いてしまったら、熱い湯に足首までつけて、ドテラを着て、うんと厚着をして、熱いうどんを食べて、身体全体から汗を流します。すると熱が下がります。そして布団にもぐって、何もしない。テレビはよくないです。とにかく横になることが大事です。それで3、4日で治ります。でも発汗作用は身体の毒素を出してくれるので、風邪も時には必要です。

 わかったようなことを言いましたが、僕はいつもこうして風邪退治をしてきました。コロナ禍以後、病気になっても病院が受けつけてくれなかったので、「絶対病気にはならないぞ」という固い決心をした結果、この一年半は病気から見離されています。だけど体力は落ちています。アトリエまで徒歩で5分位のところ現在は15分かかります。歩くと息切れ、動悸がするので、移動はきつくなっています。僕の神戸の美術館のオープニングにも出席していません。広い駅構内や新幹線は、この体力じゃ、ちょっときついように思います。

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