制作は、2020年放送のドラマ「ペンション・恋は桃色」を作ったときのチームが再結集。今年になってドラマのプロデューサーだった小林有衣子さんから、「また一緒に何かやりませんか」という話があり、スタッフが集まって打ち合わせを3回。撮影は4月。撮影日数も2日半で、約3カ月後に公開というスピーディーな展開だった。

「今までの映画だったら、話があってから半年後ぐらいに撮影して、公開がそのまた1年後だったりする。でも小林さん、工くん、(監督の)清水(康彦)さんがそろうと、短編を撮っていくようなフットワークの良さで、ニュース性のあるものをすぐ映画にして公開できた。『恋は桃色』のときも、山中湖にみんなで泊まり込んでものを作っていく感じが部活っぽかったんです。記録的な大雪の降った次の日、撮影は休みになるのが普通ですが、テニスコートのシーンで、『雪が積もっているほうが面白い』と撮影を強行した。そういうことができるチームなんです」

 映画では、主人公のラジオへの投稿が読まれたことで、それまで未来に絶望していた男にちいさな奇跡が起きる。リリーさん自身、ラジオとの付き合いは長く、今もTOKYO FMで「スナック ラジオ」というレギュラー番組を持っている。

「ラジオって、昔はチューニングしながら聴いていたのが、今はラジコがあるからどんな場所にいてもベストチューニングで聴けて、自分好みの番組を探しやすい。テレビと違って、ラジオパーソナリティーとリスナーの距離が近いのがラジオ。その人の生活も動かすことができるし、リスナーと一対一の関係になれるんです」

 リリーさん演じる健一は、映画の中のラジオで、自分の投稿が読まれ、顔をほころばせていた。

「演じていても、嬉しい気持ちになりました。俺が今やっているラジオでも、旦那さんが刑務所にいるという女性が、『刑務所では結構ラジオが聴けるので』と旦那さんに向けてメッセージを投稿したりする。SNSの時代に、電波を使ったアナログ感があるんだけど、いわゆる伝言板の役目を果たしているんです。映画の中で起こった“ちいさな奇跡”も、実はそんなにドラマチックなことじゃなく、案外一般的なことかもしれない」

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