キムラ緑子 (撮影/遠崎智宏)
キムラ緑子 (撮影/遠崎智宏)
話しぶりは立て板に水ながらちゃんと優雅。愛猫の話になると止まらない (撮影/遠崎智宏)
話しぶりは立て板に水ながらちゃんと優雅。愛猫の話になると止まらない (撮影/遠崎智宏)

 9月に上演される舞台の稽古が始まったキムラ緑子さん。稽古終わりには、週に3回のペースでジムに通う。筋肉を柔らかくし、身体能力を活性化させるトレーニング。リラックスした状態でじんわりと汗がかけるのが気に入っている。

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「ジムなんていうと格好よく聞こえるかもしれませんけど、今から努力しておかないと、この先、健全に日常生活を送っていけないんじゃないかと、それが不安で……。生きている限りは、自分の足でちゃんと歩きたいから、今できることからやっておこうと思っているだけなんです」

 淡路島に住む緑子さんの両親は80代。2人とも健在だが、最近母が入院し、父が一人暮らしになってしまった。

「83歳にして初めて、一人で家のことなんかをやっているんです。昨日も電話で、『ご飯はちゃんと食べた?』『洗濯物ちゃんと干せた?』なんて会話をしたんですが、今は暑いから、庭の芝生に水をやるのも大変みたい。実家の庭はけっこう広いので、親戚が芝刈りをしてくれたり、みんなに助けられてなんとかやっている。そんな父の話を聞くにつけ、年齢を重ねて体に無理が利かなくなると、もう生きているだけで必死なんだなと痛感しました。でも、いずれは自分もそうなるわけで」

 そんな家庭の内情を、声に抑揚をつけながらあっけらかんと話す。役によってくるくると色を変えるその柔らかい声は、インタビューのときは、ハイトーンでリズミカル。コロナ禍で舞台に立つことについても、「もう“やる”しかないから。コロナがどうとかはあんまり関係ない」と言い放つ。

「稽古のときにマスクやフェースガードをつけなきゃいけないとか、外でご飯が食べられないとか、不自由な部分はもちろんあります。でもコロナじゃなくても毎回必死なので、今までと何も変わりません。オリンピックの選手だって、はたから見ると『大変そうだな』なんて心配してしまいますが、自分たちに置き換えてみると、たぶん、みなさんは淡々とやっているんじゃないかと思いますね」

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