監督 メリーナ・レオン/出演 パメラ・メンドーサ/ユーロスペースほか全国順次公開中/97分 (c) Luxbox-Cancion Sin Nombre
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 映画「名もなき歌」の公開が始まった。実際に起きた事件を基に作られた本作は、ペルー出身の女性監督メリーナ・レオンの長編デビュー作。カンヌ国際映画祭・監督週間で注目を集め、以来世界十数カ国の映画祭において作品賞ほか数々の賞を32部門で受賞した。

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 1988年、政情不安に揺れる南米ペルー。貧しい生活を送る先住民の女性、20歳のヘオルヒナ(パメラ・メンドーサ)は、妊婦に無償医療を提供する財団の存在を知り、首都リマの小さなクリニックを受診する。

 数日後、陣痛が始まり、彼女はそのクリニックで無事女児を出産。しかし、一度もわが子を抱くこともなく院外へ閉め出され、娘は何者かに奪い去られてしまう。夫と共に警察や裁判所に訴え出るが、有権者番号を持たない夫婦は取り合ってもらえない。新聞社に押しかけ、窮状を訴えるヘオルヒナから事情を聞いた記者ペドロ(トミー・パラッガ)は、権力の背後に見え隠れする国際的な乳児売買組織の闇へと踏み入るが──。

本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)

■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
出産させ、生まれた赤ちゃんを海外に売る悪質犯罪。テロの頻発。異常なインフレ、と自国の暗黒部分を語りながら、子を奪われた女性の怒りの行動と悲しみを詩情漂うモノクロ映像にしてみせた監督の感性がみずみずしく輝く。

■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
実際に起きた事件だけでなく混沌の時代に翻弄される弱者の目線や監督自身の記憶なども重視し、カフカ的な悪夢の世界を切り拓いている。権力や暴力を直接的に描くことなく想像させる演出や独自の映像表現が素晴らしい。

■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★
モノクロだからこそみんなの心情・感情に直接集中できました。だからこそこの悲しい現実が深く心に刻まれました。こんなことがあるなんて許せない。見終わったときの、この詰まった感じはどうしたらいいのか、つらい。

■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★★
貧しい先住民の女性の悲劇が記者によって力強く再検証されていく。霞んだようなモノクロで綴られる映像は悪夢のようでもあるが、ささやかな夢を持つ主人公の女性の心象でもあり儚くも美しい。注目すべき才能の出現だ。

(構成/長沢明[+code])

週刊朝日  2021年8月13日号