今井眞一郎教授 (撮影/写真部・張溢文)
今井眞一郎教授 (撮影/写真部・張溢文)
若いマウスの血液に含まれるeNAMPTを与えられたマウス(右)。同じ年のマウス(左)に比べ毛並みがツヤツヤで、動きも活発 (今井教授提供)
若いマウスの血液に含まれるeNAMPTを与えられたマウス(右)。同じ年のマウス(左)に比べ毛並みがツヤツヤで、動きも活発 (今井教授提供)

「人生100年時代」と言われて衝撃を受けた人もいるだろうが、科学技術の急速な進展により、そう遠くない未来に「人生120年時代」が訪れようとしている。人類を「老い」の呪縛から解き放つ技術とは。そのとき、世界はどう変わるのか……「抗老化」研究の最前線をのぞいてみた。

【写真】マウスでも明らか!eNAMPTを投与したほうが毛もツヤツヤで動きも活発

「仕事の面接を受けに行ったら、孫と鉢合わせ。めでたく孫と一緒に働くことになったの」

 90歳のナナは大企業の社長をリタイア後、仕事を再開。人々の体のデータは24時間AIに送られ、「抗老化ピル」を飲むべき時間や適切な量を知らせてくれる──。

 これはワシントン大学医学部の今井眞一郎教授の著書『開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線』(朝日新聞出版)で描かれた、2040~50年ごろの世界だ。抗老化ピル、つまり老化を遅らせる薬が普及して120歳の高齢者も珍しくなくなり、予防医学の発達などで、死の直前まで元気でいられる人も増えるという。

「人生100年」どころの話ではないウルトラ長寿時代を歓迎するかは別として、そんなSFのような未来も、決して夢物語ではないらしい。

「本で描いた世界を山頂に例えると、抗老化の研究はすでに7合目から8合目まで来ている。死をなくすのはSFの世界の話だとしても、老化を遅らせるようになる日は、もう目の前なんです」

 同書を書いたご本人、今井教授はそう話す。どうやってそんな未来が実現するのかを説明するために、今井教授らの研究で解明されつつある老化と抗老化のメカニズムについて説明しよう。

 科学の世界で言われる老化とは、時間の経過とともに体のさまざまな部位に起こる機能低下のこと。その過程には、eNAMPT(イーナムピーティー)と呼ばれる酵素が深く関わっている。人の身体を巡っているこの酵素は老化で減るが、人工的に投与することで老化を遅らせられることが、マウスの実験で明らかになったのだ。

 ここで今井教授が見せてくれたのは、2匹の老マウスの動画。人で言うと80~90歳だが、若いマウスから取り出したeNAMPTを投与したほうのマウスは、活動的になり、毛もツヤツヤに。何も投与しなかった老マウスより、寿命も約16%延びたという。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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