ただし、法務局が預かるといっても、内容までチェックしてくれるわけではない。特定の人に偏った分け方が書いてあればトラブルのもととなる。遺言書を残す場合は、遺留分にも配慮しよう。

 一方で、あまり大きな効果は望めないとみられているものもある。その一つが、法定相続人でない親族でも、介護などの貢献分の相続を請求できるようになった点だ。

 たとえば、首都圏に住む60代男性のケース。男性はいま、数年前に亡くなった母親が残した実家の相続をめぐって、弟と争っている。遺産は実家の建物と土地だけで、相続人は男性と弟の2人だ。

 男性は家族とともに、実家で母と同居していた。晩年は自身や妻が母の面倒をみたり、バリアフリー工事など自腹でリフォームをしたりした。

 だが母には預金がなく、男性が実家を相続するには、弟の相続分を現金で用意する必要がある。男性も余裕があるわけではないので、母の医療費やリフォーム代、さらに自身や妻の介護による「特別寄与料」を反映し、弟に渡す現金をできるだけ少なくしたい。

 しかし、男性は「特別寄与料は思っていた以上に認められないものですね」とため息をつく。

 介護による特別寄与料は、介護をした期間に、一般的なヘルパーなどの平均時給をかけて計算する。

「長く介護をした印象がありますが、認められたのは『要介護3以上』だった最後の半年弱に限られ、妻の分と合わせて数十万円。あまり足しになりそうもない」(男性)

 そもそも、相続人の妻ら、法定相続人以外の人が権利を主張しすぎると争いに発展しやすい。介護される側も、世話になった人には、遺言書で一定の財産を残すようにするなど配慮が必要だ。

 20年4月にできた「配偶者居住権」も「今のところ扱ったケースはない」(小堀弁護士)そうで、活用例は少ないようだ。

 配偶者居住権は住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分けて、それぞれ相続できるようにする仕組み。夫が亡くなった後、残された妻が自宅に住み続けやすくなる効果が期待されている。

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