田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
イラスト/ウノ・カマキリ
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 感染拡大のリスクがあっても、あくまで五輪の有観客開催を貫く菅首相。ジャーナリストの田原総一朗氏は、内閣崩壊も辞さない覚悟を見た。

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 6月18日に、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が、東京五輪・パラリンピックについて、「無観客開催が会場内の感染拡大リスクが最も低く、望ましい」とする提言を政府と大会組織委員会に提出した。

 その提言を知って、私は分科会の幹部に、「なぜ、開催中止の要請ではなく、無観客の提言なのか」と問うた。幹部は、「この段階になって開催中止の要請は説得力がなく、宙に浮いた要請と受け止められる。無観客の提言だと説得力がある」と説明した。

 いちおう納得できる。私も無観客がよいと捉えている。だが、政府は1万人の有観客を決めた。私は6月21日に、官邸を訪ねて菅義偉首相と会談し、「なぜ無観客にしなかったのか」と問うた。

 すると菅首相は、「IOCが観客を入れての開催を前提にしていて、政府の東京五輪に関わるメンバーも有観客でやるべきだと強く求めている。無観客を押し通すわけにはいかなかった。ただし、全力を挙げて、感染者を増やさないように、やれるかぎりのことをやるつもりだ」と答えた。

 私が菅首相と会談したのは、二つのことを確認するためであった。

 一つは、安倍晋三前首相が3選後、財界の首脳たちが、このままでは10年後には日本企業は生きていけないと強い危機感を示し、安倍首相が西村康稔氏を担当相にして、産業構造の抜本的改革を宣言したことについてだ。

 私も協力して、斎藤健衆院議員を核としたプロジェクトチームを結成し、昨年9月30日、財界の首脳たちと会談して、改革構想について同意した。ところが、その16日後に菅内閣では竹中平蔵氏を中核とした成長戦略会議を発足させた。これは安倍内閣での改革構想にまったく離反している。

 私は竹中氏と会談し、「安倍構想と離反した経済戦略を打ち出したのはなぜなのか」と問うた。竹中氏は「菅首相から『安倍内閣の経済戦略は経済産業省に偏り、これでは改革はできない。わが内閣では、まったく異なる戦略を打ち立てたい。竹中さん、よろしく頼む』と言われたのだ」と説明した。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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