東京都千代田区に設置された自衛隊大規模接種センターの受付 (c)朝日新聞社
東京都千代田区に設置された自衛隊大規模接種センターの受付 (c)朝日新聞社
(週刊朝日2021年6月11日号より)
(週刊朝日2021年6月11日号より)

 5月26日に開かれた東京五輪・パラリンピック組織委員会の理事会。理事の一人である小山有彦(くにひこ)東京都議はこう訴えた。

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「あらゆることを想定して、再度の延期要請も検討すべきではないか」

 理事会で再延期や中止について意見が出たのは初めて。だが、武藤敏郎事務総長から明確な回答はなかったという。小山氏を直撃すると、会議の内容をこう説明した。

「私の提言に対し、武藤氏は『競技場や選手村の確保に問題があり、再延期は難しい』との説明でした。また、中止や再延期を決める権限は組織委員会にはないということで、会議は終わりました」

 小山氏の提言は“黙殺”されたが、大会中止を求める声は高まり続けている。それでも、菅義偉首相は強行開催の姿勢を崩していない。

 そこで、政府が「切り札」として期待しているのがワクチンだ。

 菅首相は、65歳以上の高齢者のワクチン接種を7月末までに完了させることを目標に掲げる。官邸関係者は「支持率が低下する菅首相にとって、ワクチンの早期接種は最優先課題」と話す。

 しかし、5月27日時点で1回目のワクチンを接種できた高齢者は約358万人。高齢者全体の約1割にとどまっている。

 一方、自治体によって高齢者の接種率に格差が生まれている。

 政府が公表しているデータをもとに、1回目のワクチンを接種した高齢者の割合を都道府県別に調べた。

 トップの和歌山県は23.4%。全国平均の2.3倍のペースで接種が進んでいる。和歌山県の担当者はこう話す。

「県内の高齢者(約31万人)のうち約3分の1が住む和歌山市で接種が順調に進んでいます。医療関係者の方にも積極的に協力をいただいていて、市内にある280以上の診療所でワクチンが接種できるようになりました」

 同県では人口10万人あたりの診療所数が日本一多く、多くの高齢者が「かかりつけ医」を持っているという。平時に築かれていたネットワークの活用が奏功したようだ。

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