最初に渋沢栄一が大河ドラマの主人公になると聞いたときには、明治の財界人を描いて面白いのか、受け入れられるのかと疑問に感じました。でも、家康公が出てくることで、長い歴史の中で明治維新、明治時代を捉えなおすという趣向なのだと合点がいきました。前作の「麒麟がくる」では織豊時代、そして「青天を衝け」では江戸から明治へ。2年という時間をかけて、私たちの見慣れた日本の歴史を鳥瞰している、そんな印象を受けます。その流れの中で見ますと、重苦しい侍ではなく、地に足のついた農家(富裕な上層農家ではありますが)出身の渋沢が主人公だというのは、日本史の流れ全体に希望を持たせてくれると感じています。

とくがわ・いえひろ 1965年生まれ。父・恒孝氏は徳川宗家18代当主。慶応大学卒業後、米ミシガン大学大学院で経済学修士号を取得。著書に『マルクスを読みなおす』。

■「徳川慶喜公は誇り高き強い意志の人」(水戸徳川家15代当主)/水戸徳川家 徳川斉正さん

 私は慶喜公の11番目の娘の孫にあたります。親戚の人々から「曾祖父はこんな人だったよ」という話を聞く機会もありましたので、徳川慶喜という人は歴史上の人物というよりとても身近な存在なのです。徳川の家でも「よしのぶさん」とか、「けいきさん」とか呼んでいますので、いずれでも結構です。

 慶喜公は15代の将軍となりますが、大河ドラマの中でも、草なぎ剛さん演じる慶喜公が、当初は将軍になりたくないと言っています。父・斉昭公も慶喜公を将軍にしたいとは考えていなかったと思いますし、私もその通りだと思います。親は混乱する政治に自分の息子を巻き込みたくないと考えたと思います。

 ただ、慶喜公はとても立派な方だったと思います。それは父・斉昭公の教えがあったからです。

 斉昭公は慶喜公を自らがつくった藩校「弘道館」に入れます。そこでは、「わが君主は天子」と教えます。それは光圀公以来、受け継がれてきた尊王の教えです。日本は天皇をその中心にいただいた国であり、武家は朝廷から国を預かっているという考え方です。その教えが慶喜公にもしっかり受け継がれているのです。

次のページ