日本銀行の黒田東彦総裁 (c)朝日新聞社
日本銀行の黒田東彦総裁 (c)朝日新聞社

 コロナ禍で経済・社会活動が制限されている実社会と違い、空前の活況なのが株式市場。米国株は最高値を更新し、日本株もバブル以来の高値。その株式市場で、日本銀行の株が乱高下する“珍事”が起きている。

 日銀株は2月末から3月初旬にかけ、取引高が膨らみ急騰。昨年から2万円台の動きだったが、一時は5万8千円まで上昇。その過程で1日の値幅制限いっぱいの「ストップ高」を連発し、その後は「ストップ安」にもなった。

 ちなみに、ここで日銀株と呼ぶのは正確には出資証券のことで、日銀に対する出資の持ち分を表す有価証券。日銀の資本金1億円のうち政府が55%、民間が45%を出資する。出資者は株主と違い、議決権がない。

 普段、あまり注目されることのない銘柄が突如、急騰したのはなぜなのか。楽天証券経済研究所の香川睦チーフグローバルストラテジストは「商いが少ないだけに一つの方向に動きやすい。投資家の心理を反映し、取引の需給関係に押される部分がある」とみる。一方、松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「昨年以降は下落基調で割安の水準に放置されていた。そこに着目した個人投資家がいたのかもしれない」。取引量が少ないため、すぐに急騰し、さらに買い進む材料がないため利益を確定する売りで急落したとみている。

 米国の株式市場では最近、ゲーム販売店「ゲームストップ」の株取引が注目を集めた。プロ投資家の「空売り」と呼ばれる売り浴びせに対抗し、素人投資家がネットで買いを呼び掛けて応戦し、打ち勝った。個人投資家が存在感を見せつけた出来事だ。日銀株が乱高下する日本市場でも「個人投資家が活発です」と窪田氏は指摘する。

 最近の株価上昇は日銀の金融緩和を受け、あり余ったお金が投資先を求めて株式市場に流れ込んだことが背景にある。日銀も金融緩和のため、自らETF(指数連動型上場投資信託)購入で株に投資している。

 いわば日銀の主導で活況となった株式市場で、出遅れた個人投資家が投資先を求めて行きついた先が、見向きもされなかった日銀株だったというわけ。終わらぬマネーゲームは、日銀さえも踊らせてしまったようだ。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年3月26日号