坂本:リサさんはなぜボサノヴァを主にやるようになったのですか。

小野:ボサノヴァはアレンジが自由だからこそ、無機質な響きのようで、実は喜びや悲しみが豊かに表現されています。そこに魅力を感じました。だから、アメリカのジャズのミュージシャンの心もとらえて、世界中に広がっていったのではないでしょうか。

大西:ブラジル音楽のレジェンド、アントニオ・カルロス・ジョビンが作曲したボサノヴァの曲はジャズのスタンダードにもなっています。私も数々のセッションでジョビンの曲を演奏しました。

小野:ジョビンの音楽は完成度が高くて、ヨーロッパのクラシック音楽のような格調を感じます。ボサノヴァの歴史は古くはないけれど、ブラジル人にとってのボサノヴァは、日本人にとっての歌舞伎や能など伝統芸能に近いかもしれません。

坂本:日本人が演奏する日本のボサノヴァをリサさんはどのように聴いていますか。

小野:日本のミュージシャンのかたがたが演奏するボサノヴァは、アメリカというフィルターを通したブラジル音楽だと感じています。アメリカのジャズミュージシャンがボサノヴァを演奏するようになり、そこから日本に入ってきたので。

大西:ジャズミュージシャンにとって、ボサノヴァは必須のマテリアルです。ジャズやポップスのスタンダードナンバーでも、ボサノヴァのアレンジにすると、カバーとして成功することがよくあります。ボサノヴァのリズムは、マジックというか、音楽の大発見です。

小野:ボサノヴァには、どんな音楽でも受け入れる懐の深さがあります。

大西:過去に日本人ミュージシャンのサンバの演奏に「リズムが違う」とダメ出ししたブラジルのピアニストもいましたけれど、リサさんも同じように感じていますか。

小野:私は、アメリカのミュージシャンと比べると、日本人のほうがブラジルのリズムやグルーヴに近いと感じています。ブラジルの音楽と日本の音楽の多くはオンビート(1小節中の1拍目と3拍目が主のリズム)ですよね。一方、アメリカのロックやジャズの多くはオフビート(同2拍目と4拍目が主)なので。でも、ジャズとボサノヴァは親戚のような関係でもありますよね。思いやりをもって、音をやり取りするところなど、多くの共通点を感じます。

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