落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「漫才」。
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昨年末のM-1でマヂカルラブリーが優勝し、年が明け、再び「緊急事態宣言」が発出された。世のお笑い好きはもっと穏やかな漫才がみたいんじゃないかな。同じ若手漫才師でも寄席でお馴染み、青空一風(いっぷう)・千風(せんぷう)はいかがですか?
若々しさのない芸名だけど結成9年目。寄席芸人としては十分若手。ツッコミの一風さんは42、ボケの千風さんは37。一風さん、オレと同じ年の生まれじゃないか。今、ウィキを見て知りました。よく会うのだけど、実はじっくり話したことはないのだ。ちょっとネットの力を借りてみる。
漫才協会に所属している一風・千風。二人の師匠は青空一歩・三歩師匠。その一歩・三歩師匠の師匠は青空千夜・一夜師匠。千夜・一夜師匠の師匠はコロムビア・トップ・ライト師匠。なるほど、トップ・ライト師匠の曾孫弟子なのか。名門の出だ。
一風・千風さんは漫才協会に入会後、落語協会にも所属し、東京の寄席に出演するようになった。初めて会ったときに「正蔵師匠の一門に入れて頂きました!」とキラキラした目で挨拶をされたのが2015年。落語協会の色物(落語家以外の芸人)さんは噺家の一門に入る人が多い。入会しやすく、後ろ盾にもなってもらえるからね。正蔵師匠優しいしね。いいとこ入ったよ。
一風さんは昔のアメリカのドーナツのCMに出てるようなバタ臭い童顔の色白の優男。千風さんは大柄な太めの気の弱そうな、農協にコネで入った地元の市議会議員の三男坊みたい。寄席に出るようになって今年で6年目。出始めの頃、高座を降りて「どうでした?」と聞くと「地獄でした!」となぜかニコニコしていた。たしかに客席は一風どころか凪だった。でもニコニコ。そこが彼らのいいところ。