大分県東部保健所も増員態勢にしているが、調査は深夜に及ぶという。

「都市の保健所では本来の疫学調査の半分もできていないと思います」(同)

 こうしたクラスター対策への固執を改めるべきだという指摘もある。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が話す。

「コロナ対策の根拠となる感染症法では、感染者が確認されると濃厚接触者を割り出して検査を受けさせる『クラスター対策』が求められている。保健所はこの業務に時間を割かれていますが、無症状患者がいるとわかった時点で、この方法での封じ込めには無理があった」

 検査で陽性となった人を起点にした調査では、無症状患者が感染を広めている経路は把握できない。そうして市中に感染が広まってしまった以上、もはやクラスター対策は機能しないというのだ。

「保健所職員は目の前の人のケアをすべき。受診の相談をコールセンターに委託するなら、聞き取るだけの濃厚接触者の特定も外部委託やAIでできるはずです」(上医師)

 実際、ニューヨーク州で民間事業者が協力して濃厚接触者の特定を行っている例もあるという。

 前出の内田会長も本誌の取材に、クラスター対策の限界を認めている。

「感染が広がっていない地方では何とかすべての濃厚接触者を追えますが、緊急事態宣言が出ているような都市部ではすでに追えていないと思います。都市部の保健所は、濃厚接触者の特定に力を入れることをやめ、新たなフェーズに入っていくでしょう」(内田会長)

 1月12日には首都圏1都3県の知事が菅首相らと会談して、濃厚接触者の調査を重症化リスクの高い高齢者に重点化するなど基準の明示を要望したが、16日現在、国はまだ方向性を示していない。ここでも、菅義偉政権の「後手後手」がネックになっているのだ。(井上有紀子)

>>【後編/“コロナ放置”の自宅死を防ぐには もう保健所はあてにならない?】へ続く

週刊朝日  2021年1月29日号より抜粋