バイデン次期大統領 (c)朝日新聞社
バイデン次期大統領 (c)朝日新聞社
支持者たち (c)朝日新聞社
支持者たち (c)朝日新聞社

 米大統領選で当選確実となった民主党のジョー・バイデン次期大統領が、外交活動を本格化させている。共和党のトランプ大統領は日本時間11月16日夕現在、敗北を認めていないものの、各国首脳は祝意を表明して期待を寄せる。だが、新政権の誕生は、日本にとっていいことばかりではない。

【写真】バイデン次期大統領の支持者たち

*  *  *

 米国のバイデン次期大統領は、早くも対中国を主眼とするアジアシフトを打ち出した。11月12日、菅義偉首相との電話協議で、日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条が沖縄の尖閣諸島に適用されると明言した。

 日本など同盟国との関係を重視するというバイデン氏らしいリップサービスと受け取れる。日本側を喜ばせる約束の裏には、それ相応の“見返り”を求めてくるとの見方がある。軍事評論家の前田哲男氏が指摘する。

「米国の対中国政策で、日本は重要なカードです。アジア軍事戦略のパートナーとして重用しながら、日本政府と自衛隊に米軍への最大限の協力を引き出させるでしょう」

 米国は昨年8月、ロシアと結んでいた中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させている。条約で地上発射型の中距離ミサイルの保有や開発を禁止していたが、その重しが取れた。失効からほどなく、米国は中距離巡航ミサイルの発射実験を行った。前田氏が続ける。

「米国はいま、新型トマホークなど中国に対する攻撃ミサイルを盛んに開発しています。日本を含めたアジア太平洋地域に配備したいと考えている。特に、日本の南西諸島を指定してくる恐れがあります。沖縄の石垣島や宮古島などでは陸上自衛隊のミサイル基地化が進められており、一体化させることも考えられる。いま非常に分厚い対中包囲網が形成されつつあり、この流れはバイデン氏が大統領になっても変わらないでしょう」

 米国が日本に中距離ミサイルを配備すれば、中国とロシアが対抗措置を取ることは間違いない。

 10月26日~11月5日には、日米両国が合同軍事演習を日本周辺の海域で実施。11月3日からはインド、オーストラリアを含めた4カ国で、インド洋のベンガル湾でも演習が行われた。

 外交・安全保障問題で情報発信などを行うシンクタンク「新外交イニシアティブ」代表の猿田佐世弁護士がこう懸念する。

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら
著者プロフィールを見る
秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

秦正理の記事一覧はこちら
次のページ