また、シンガポールのリー・シェンロン首相も、「アジア諸国は、米国はアジア地域に死活的に重要な利害を有する『レジデントパワー』だと考えている。だが、中国は目の前に位置する大国だ。アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない。」と米誌への寄稿で米中を強烈に牽制した。

 この、「米中いずれを選んでもマイナスが大きすぎる」「『選べ』という場面を作るな」という米中の狭間にある悩みは、日本にもそのまま当てはまらないだろうか。

 人権侵害を繰り返し、対外積極策に出続ける中国への対応は大変困難な問題であるが、その解決策として日本が防衛力を強化し続けても、10数年、あるいは数十年の間に米国と日本の経済力や軍事力を合わせても中国に敵わない日が来るともいわれている。

 その日が来てしまう前に、日本が今一番になすべきは、敵基地攻撃能力を導入して米中ブロック間の対立をさらに激しくすることではなく、日本の安全保障環境の改善のため、米中対立の自制を米国に求め、また、世界中のDon’t make us chooseと叫ぶ国々と連携して国際法の順守や緊張緩和に向けた米中への働きかけを国際社会全体でできるようイニシアティブをとることである。

(新外交イニシアティブ代表 猿田佐世)

※週刊朝日オンライン限定記事

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猿田佐世

猿田佐世

猿田佐世(さるた・さよ)/シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表・弁護士(日本・ニューヨーク州)。各外交・政治問題について、ワシントンにおいて米議会等にロビイングを行う他、国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究テーマは日米外交の制度論。著書に「新しい日米外交を切り拓く(集英社)」「自発的対米従属(角川新書)」など

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