金正恩氏と金与正氏(C)朝日新聞社
金正恩氏と金与正氏(C)朝日新聞社
絶対秘密指定文書「2月27日党中央委員会拡大会議での金正恩同志のお言葉」の表紙(写真/アジアプレス)
絶対秘密指定文書「2月27日党中央委員会拡大会議での金正恩同志のお言葉」の表紙(写真/アジアプレス)
コロナ対策の国家指針を定めた4月11日の決定書。右上に「絶対秘密」の注意書きがある(写真/アジアプレス)
コロナ対策の国家指針を定めた4月11日の決定書。右上に「絶対秘密」の注意書きがある(写真/アジアプレス)
「決定書」に押された労働党中央委員会のハンコの印影(写真/アジアプレス)
「決定書」に押された労働党中央委員会のハンコの印影(写真/アジアプレス)

 新型コロナウイルスの感染の感染拡大がなかなか収束しない。それどころか、フランスやイタリアなどでは感染者が再び増え、夜間の外出禁止令などがまた発出される事態になってきた。世界の関心は依然として「コロナ」にある。そうしたなか、エアポケットのようにコロナ関連の情報が出てこないのが北朝鮮だ。公式情報によると、北朝鮮にコロナ感染者はいない。では、本当はどうなっているのか。北朝鮮当局の「絶対秘密」と格付けされた内部文書を入手したジャーナリスト・石丸次郎氏(アジアプレス大阪事務所代表)が、その実態をお伝えする。

【写真】北朝鮮の「絶対秘密指定」の機密文書はこちら

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 肥満体をグレーのスーツで包んだ金正恩氏が深夜の金日成広場で演説に立った。10月10日午前0時に始まった朝鮮労働党創建75周年記念式典でのことである。金正恩氏は新型コロナについて次のように言及した。

 台風被害がなど重なり、人民の暮らしが急悪化したことを、金正恩氏は「申し訳ありません」「面目ありません」と繰り返し謝罪した。演出なのか本当に感極まったのかはわからないが、眼鏡を外して涙を拭う場面もあった。

 そして、こうも言った。

「一人の悪性ウイルス被害者もなく、みなが健康であってくれて本当にありがとうございます。世界を恐怖に陥れている悪性の伝染病からこの国の全ての人をついに守り抜きました」

 これは「コロナ感染ゼロ」という“勝利宣言”である。式典の映像の中では、金正恩氏や側近の幹部たちはもちろん、広場で音楽を奏でる軍楽隊、行進する人民軍の兵士、観覧席の平壌市民の誰もマスクを着けていなかった。まるでコロナに対する勝利を演出しているかのように私には見えた。

 しかし、事実は正反対だった。それが、筆者が入手した内部文書で明らかになったのだ。

「絶対秘密」という指定の付いた「7月25日会議での金正恩同志のお言葉」という文書に真実は記されている。中国・武漢で新型コロナの罹患(りかん)者が拡大していた1月下旬、北朝鮮は国境を完全封鎖し、貿易もストップ。外国メディアの記者も一切入国できなくなった。友好国であるはずの中国やロシアのメディアも同様である。そんな状況下での真実を知る大きな手掛かりが、この「絶対秘密」の文書にはある。

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「わが国では体温計すらまともに生産できない」