そこには何が書かれているのか。

 今年7月25日、朝鮮労働党中央委員会の政治局非常拡大会議が緊急招集された。全7ページの文書はその会議での金正恩氏の発言をまとめたもので、限られた幹部だけが閲覧を許される。まさに「絶対秘密」である。その中で金正恩氏の言葉が記されている。主な内容は以下の通りだ。

「過去6カ月間、全国的に各方面で強力な非常防疫対策を講じたにもかかわらず、わが国の域内に新型コロナウイルスが入ってくるのをとうとう防げなかった」

「私たちは、ついに全世界が騒いでいる致命的な悪性ウイルスと直面したものの、落胆と憂慮と恐怖を消し去り、百倍の信心と重い責任感を固く持ち、党中央の指示を貫徹するために無限の忠実性を発揮すべきであり、党中央の周りに一致団結し、今日の防疫戦で必ず勝利者にならなければなりません」

 つまり、“勝利宣言”の3カ月ほど前の時点で北朝鮮にはコロナウイルスの罹患(りかん)者が発生し、それを金正恩氏自らが認めていたのだ。それだけではない。筆者は別の内部文書も入手している。

「絶対秘密 2月27日のお言葉」と題する文書だ。中国国境を封鎖して約1カ月後の2月27日に開かれた党中央委員会政治局拡大会議での金正恩氏の発言を記したものだ。

 金正恩氏はそこでも驚きの発言を繰り返している。立ち遅れた自国の防疫体制をひどく嘆いている。これらはいずれも、筆者が持つ取材ネットワークの中で得られたものだ。

 2月27日付の絶対秘密文書から金正恩氏の「お言葉」をいくつか紹介しよう。

「わが国には非常防疫に関する法と行動秩序、危機状況に合う国家的防疫体系とその実行のための行動準則がなっておらず、物質技術的手段はゼロに等しい」
「人々はタオルや布くずを切って作ったマスクを着用」
「消毒液代わりにヨモギを焚(た)くことで、防疫事業をしている、消毒をしていると宣伝している」
「わが国では体温計すらまともに生産できない」

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