春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「後継者」。

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 この号が出る頃にはもう自民党次期総裁は決まってるのね。野次馬からすると立候補会見の時点で先が見えちゃっていてつまらんです。ところで二階さんは人形焼に似てますね。中にはアンコが沢山詰まっていそう。七福神の人形焼を買ったら袋によく分からないヤツが一つ入ってて、よく見たら「あ、二階さん?」みたいな感じで、シレーッとどこにでも顔を出す二階さん。

 そんなニセエビス様がパンケーキ令和おじさんを担ぎました。その甘みに群がるように「我も我も」と票が入り、アリまみれの割れたゴーフルみたいな菅さんを、遠くから酒豪の岸田さんと鉄オタの石破さんが指を咥えて眺めてます。メディアは候補者の「人となり」や「政局」をやたらと教えてくれるから、そんなことばかり詳しくなっちゃったよ。

 都内にベタベタ貼ってある「感染防止徹底宣言ステッカー」のレインボーが、菅さんの髪形に見えて、街中で菅さんの総理就任を祈ってるみたい。とにかくこれからもっと景気が冷え込むでしょうから、我々の「出血」は最小限に抑えてもらいたいですよ、次期総理。

 身近なはなし。長年付き合いのあった日本手拭いの染め屋さんが先日廃業しちゃいました。落語家は毎年正月の挨拶用に手拭いを染めるので、染め屋さんとは切っても切れない仲なのです。どうやらご主人の体調不良が理由、後継者もいないようで残念ながら店じまいとなったようです。ご主人からご挨拶の手紙と、今まで染めに使ってきた私の手拭いの『型紙』が送られてきました。

 10年以上、何千枚も染めてきた私の型紙は思いのほか綺麗でした。ところどころテープで補修はしてあるものの「新たな業者さまへお渡しください」と手紙にあり、まだまだ使えるようです。以前、ご主人が言ってたっけ。「型紙を彫る職人さんも少なくなって、後継者がいなくて大変なんですよ」。一枚の型紙を大切に使うのもそういう理由からかもしれません。来年は新しい柄にしようかと思ってましたが、もうしばらくは今までの型紙のお世話になろうかと思い直しました。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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