会見で表情が冴えなかったのも、補佐役の自分に肝心な情報が知らされていなかったショックがあったのかもしれない。会見後も報道陣には何も語らず退場した。菅氏の心境を、自民党関係者がこう推測する。

「派閥のない菅氏は、このまま事実上の“臨時総理”を続け、総理の健康状態が悪化した際に緊急避難的に権力を移譲されるほうが、トップの座に就きやすかった。すぐ総裁選という展開は望んでいなかったのでは」

 ところが、そこから菅氏の動きは機敏だった。首相の辞任表明の翌29日には二階幹事長と会談して総裁選への出馬要請をいち早く伝えると、二階氏も「頑張ってほしい」と応じた。こうして二階派が菅氏を支持する流れをつくると、30日に麻生派を率いる麻生太郎財務相兼副総理、31日には最大派閥・細田派の細田博之会長と次々と会談。31日には麻生派、細田派の両派も菅氏への支持を決断した。

 無派閥ながらあっという間に三つの大派閥を味方につけた菅氏。ここまでの展開を見る限り、岸田氏、石破氏よりも「一枚上手」だったということになりそうだ。

(本誌・西岡千史、上田耕司/今西憲之)

※週刊朝日9月11日号に加筆

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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