Aさんが「3密」状態を気にしつつ買い物を済ませ、店を出ようとしたとき。外から大声が聞こえてくる。

「Oh! まったくもうっっ! アナタはいつもいつもいつも、なぜこんな嫌なことばかりするのですか!?」

 まるで観客に向けて訴えかけるような芝居がかった大仰な声のトーンと言い回しである。気になって声のするほうを見ると、まだ5~6歳くらいの欧米系の可愛い少女が、両手で頭を抱えていた。しきりに「なぜいつもいつも~!」と嘆いている。

 見ると、少女の傍らのガードレールには、小型犬がつながれていた。そして、少女の足元には、立派なウンチがこんもりと……。

 おそらく親がスーパーで買い物する間、犬と一緒に外で待つように言われたのだろう。そして、つながれている間に犬がフンをしてしまったようだ。

 少女としては、恥ずかしさもあるのか、通る人たちに「これは自分がしたものじゃない!」と主張したかったのかもしれない。しかし、結果的にその大声のせいで、むしろ注目を浴びることになってしまっていた。

 大声で「オーノー」と嘆き続ける少女のもとに、ようやく買い物を終えた母親が登場。

「ノープロブレムよ」

 笑顔で母がポリ袋に手際よく処理した。

 その後、母親は買い物袋いっぱいの荷物を両手に、少女は片手に犬のリード、片手に母が処理した犬のフン入りのポリ袋を持ち帰路についた。

 重そうな荷物を持つ母、その少し後ろを怒り疲れたかのように歩く娘、しょげたように娘に引かれ歩く犬……それぞれの絶妙な距離感がかもしだす空気に、「ソーシャルディスタンス」と思わずつぶやくAさんだった。

*    *  *
<出来事が世に満ちている。世の中は、出来事であふれかえらんばかりである>

 今は昔、こんな“宣言”を掲げ、1978(昭和53)年、産声をあげたのが、名物連載「デキゴトロジー」です。

「今昔物語集」の時代から、人間とは“ケチでゴマスリ、かつポンビキ”で、その本質のようなものは千年の時が流れようともちっとも変わっちゃいなくてやっぱり笑える。それだからこそ、現代の出来事を後世に残す“現代の今昔物語”を目ざして始まったものだと伝え聞いております。

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