劇の企画プロデュースを担当した映画コメンテーターの有村昆氏(C)朝日新聞社
劇の企画プロデュースを担当した映画コメンテーターの有村昆氏(C)朝日新聞社

 東京・新宿シアターモリエールの舞台「THE★JINRO」によるクラスター発生は、主演の山本裕典をはじめ、企画プロデュースを担当した映画コメンテーターの有村崑氏、有村氏の妻でフリーアナウンサーの丸岡いずみさん、そして観客など59人が新型コロナウイルスの陽性と判明。期間中の観客を含む約850人が濃厚接触者と認定された。

 公演は収容人数を減らし、最前列の観客にフェースシールド着用させるなどの対策を行ったというが、体調不良でも出演した俳優がいたり、終演後に“出待ち”するファンに出演者が握手をしたりするなどの接触行為もあったという。

 これまで演劇関係者らが積み上げて来た努力が水泡に帰しかねない事態。舞台の演出や脚本を手がけるパンチェッタの一宮周平さんは、予定していた3月と5月の公演が中止になり、現在11月の公演を目指して準備中。一連の騒動についてこう語る。

「報道などでは山本さんや有村さんの顔写真がまるで犯罪者のように掲げられ、クラスターのイメージで演劇界全体が見られそうなのが残念です。『やっぱり劇場は……』と思う人は確実に出てくるでしょう」

 公演が再開された舞台をいくつか観劇した演劇評論家の小山内伸さんは「いずれも舞台と客席、観客どうしのディスタンスが保たれ、終演後の面会も禁止するなど、対策はしっかりしていました」と言い、日本の演劇文化の発展にブレーキがかかることを懸念した。

「ライブハウスや『夜の街』と同じく、舞台もわかりやすい事例としてスケープゴートにされやすい。今回の件をもって、公演の再開を慎重に進めている多くの演劇に対してもさらなる制約が加わるようならば、伝統と前衛の双方で発展してきた日本の演劇に対して野蛮な終止符を打つことになりかねません」(小山内さん)

 下北沢で8軒の劇場を展開する小劇場界の雄、本多劇場グループの総支配人・本多愼一郎さんは、今回の件をふまえこう語る。

「こちらが今後どのような対策を新たにするべきか考える材料になるので、感染が拡大した状況について早めに正確に主催者側に発表してほしいです」

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本多劇場総支配人が語る、下北沢という街との「接点」