だが、克行被告に近い自民党関係者はこういう。

「裁判では徹底的に争う。もらったという100人、全部を法廷に呼び、本当に選挙のためにカネを渡したのか、尋問したいという方針のようだ」

 百日裁判は原則、起訴されてから1か月程度で初公判を開くことになっているので、逆算すると8月7日までとなる。

 検察は河井夫妻の買収を立証するため、もらった100人の名前、全員を法廷で読み上げる予定だという。前出の県議は慌てた声でこう語った。

「裁判で貰った人間の名前を言うのか?裁判で公になれば、苦情が一杯いきて、議員は続けられない。今は名前がハッキリしないから、なんとか辞めずにごまかせている。公表は困る。せっかくのバッジが飛んでしまう。取り調べでも、カネの授受を認めて調書にサインすれば、事件にはしないという話のはず。ヤバイよ」

 法廷でカネをもらったことが明らかになれば、県民、市民の批判はさらに強くなるはず。広島県内で、40人を超す自民党系の県議、市議が同時に辞職となれば、当然、補欠選挙となる。そこへ案里被告が失職した場合も選挙だ。

「検察が贈賄側を起訴しないのは、河井夫妻被告の裁判対策かもしれない。証人で県議や市議たちに、票のとりまとめでカネをもらったと法廷で証言させたいがために、刑事処分を先送りしているのではないのか。つまり、検察ストーリー通り証言すれば、起訴しない、事件にしないという意味でしょう。その脅しのような手法は問題だ」(前出の郷原弁護士)

 河井夫妻がばらまいたカネの原資とみられている昨年7月の参院選公示前に自民党本部が夫妻に振り込んだ1億5千万円の捜査については不問になりつつある。

 安倍首相と近い自民党幹部がこう話す。

「党本部のガサ入れは免れたが、選挙となれば、自民党が勝てるわけない。それも30人とか40人の市議や県議がやめる補欠選挙になるわけでしょう。なんとか県議や市議の辞職が回避できないものか、安倍官邸も心配している。証人尋問で、自民党から振り込んだ1億5千万円や安倍首相の秘書が応援で広島入りしたことなどの話が出て、変な証言でも出るとえらいことになる。だが、もう“守護神”の黒川弘務前東京高検検事長もいないし、頭が痛い」

 8月にも予定される河井夫妻容疑者の初公判。とんでもない、時限爆弾が炸裂するのかもしれない。

(今西憲之)

※週刊朝日オンライン限定記事

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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