ピアノとバイオリンの練習会は幾度となく行われ、古澤さんはその都度出向く。

「2時間も3時間も美智子さまは楽しそうにピアノを弾いていらっしゃる。陛下が一度立ち会われたことがありまして、なんとピアノの譜めくりを始めたんです。どうやら陛下が譜面を早めにめくり過ぎたようで、美智子さまが『そこじゃない』みたいな雰囲気のジェスチャーをされていて、もう微笑ましいったらありませんでした」

 古澤さんの言葉を通して上皇さまと美智子さまの睦まじい姿が浮かんでくる。

「今新しい仮住まいにいらっしゃると思うのですが、つい先日、4月30日頃だったか、美智子さまがお電話を下さいましてね。ご病気をされたり、新型コロナのこともあり、どうされていらっしゃるか心配でなりませんでしたが、本当にハリのあるお元気そうなお声で、とにかく今はこういう時だから、無事でまた会えたら、是非一緒にまた演奏をいたしましょうと仰ってくださいました」

 昭和・平成・令和の御代、上皇さまと上皇后美智子さまの傍らにはいつも音楽があった。新しいお住まいとなる予定の仙洞御所で、美智子さまと、Tシャツにコットンパンツ姿の古澤巌さんが演奏される様子を想像すると、僕は何だかとても心楽しい気持ちになる。

週刊朝日  2020年6月12日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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