病院のみならず、介護施設などでもそういうケースがまま見られる。

 これも友人のケースだが、九十九歳になる母親が東北の施設か訪問看護で介護を受けている。

 友人は編集者なので、仕事を続けながら故郷の母のもとへ帰って様子を見たいと思うのだがそれもままならない。たとえ肉親でも、県外から誰かが会いに来た場合には、通常の介護サービスが二週間受けられなくなるとか。

 どうしてそういうことになるのか。彼女は私への葉書で、「ムジュン!」と嘆いていた。

 会えないままに、東京と遠く離れた母親が亡くなってしまったら、泣くに泣けない結果になる。

 彼女の故郷の県はほとんどコロナ患者が出ていない。しかし、そうした県ほど神経質なまでに他県の人が来ることを拒んでいる。

 それでこそ守られているのはよくわかるけれど、これからは「with コロナ」で、コロナと私たちは共生していくしかない。ならばそれにふさわしいケースバイケースの柔軟性を、私たち一人一人が身につけていかねばならない。マニュアルに個を合わせるのでなく、個にマニュアルを応用するのだ。

週刊朝日  2020年6月5日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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