それまでにもTwitterで「#自粛と補償はセットだろ」などのハッシュタグをつけたオンラインデモに参加した経験があったことから、投稿への心理的ハードルはそれほど高くなかった。工夫したのは、語調の強い言葉は入れないことだったという。

「『安倍はやめろ』といった強い言葉は自分自身言いづらかったし、見ている人たちにも怖い印象を与えてしまう。自分にとって言いやすく、嘘がない言葉を入れるようにしました」

 笛美さんが異変に気付いたのは翌9日の夜だった。SNSでつながる知人のほとんどが「#検察庁法改正案に抗議します」を使ってつぶやいていた。

「漫画家の二ノ宮知子さん、作家の角田光代さん、コピーライターの糸井重里さんなど、私が尊敬していたクリエイターの方たちも同じハッシュタグを使ってつぶやいてくれていた。ここまでの反響はまったく予想していなかったので驚きました」

 笛美さんが動いたのはSNSの中だけではなかった。法案が見送りとなるまで、並行して地元選出の国会議員事務所やその秘書への電話かけも行った。Twitterも含め、活動は朝と夜と仕事の休憩中だけ。後は在宅勤務を続ける日々を守り抜いた。

 笛美さんの起こしたアクションは政府も無視できないほどの大きなうねりとなった。検察OB有志が法案成立に再考をうながす意見書を提出するなどの動きも合わさって、今国会での法案成立見送りという結果につながった。

「ちょっとは安心したけど、油断はできないと思いました。それよりも、知り合いにバレないよう二重生活をずっと送っていたので、その疲れの方が大きくて。『今回のような行動をもう一度起こさないといけないのかな』『もう疲れたよ』というのが正直なところです」

 SNS上のムーブメントが国会での法案審議にまで影響するという歴史的な出来事となった今回の一件。自身の中でも新たな発見があったと笛美さんは語る。

「今まで、周囲の人たちは政治にあまり関心がないと思っていました。でも今回、ツイッター越しに同世代の女性たちから『勇気をもらえた』というリプライをたくさんいただけたんです。みんな本当は言いたいことがあって、言えていなかっただけなんだな、ということに気付くことができました。私が今回やったのは、自分が思っていることを素朴に言ったというだけ。声を上げてくださった方一人ひとりが、私の行為を引き継いでくださったら嬉しいです」

(本誌・松岡瑛理)

※週刊朝日オンライン限定記事