転機が訪れたのは数年前。旅行でヨーロッパのとある国を訪れ、フェミニズム(女性解放運動)の考え方に興味を持ったことだった。「女の子」ではなく、一人の人間として尊重してもらえている感覚に日本との違いを強く感じた。帰国後も、フェミニズムへの関心は深まっていった。

「安倍政権では『女性が輝く社会』としきりに言われますよね。仕事だけでなく結婚して子どもも産まないといけない、その人生に乗れなければ終わりだと思っていた。でもそれは、生き方まで押し付ける国の政策の影響もあったと気付いたんです。それ以降は楽になれました」

 一方、周囲の友人との会話ではフェミニズムの話題は出しにくかった。

「『フェミニズム』という単語を出すだけで引かれてしまいそうで。何度か話題にしようと試みたのですが、その度ごとに震えてしまって、結局、口に出すことはできなかった」

 こうした事情もあって、フェミニズムや政治に関わる情報収集・発信はツイッターの匿名アカウントを通じて行うことが習慣になっていた。

 検察庁法改正案の問題に最初に注目したのは1月だった。「せやろがいおじさん」(お笑い芸人・榎森耕助さんが扮するキャラクター)のYouTube動画で、黒川検事長の定年延長決定が題材とされている回を見たことがきっかけだった。

 3月には新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、笛美さんも在宅勤務に。空いた時間で国会中継などを見て、政治について気になることを調べるようになっていった。5月7日、国会を見ていたところ、野党不在のまま法案内容が審議され、来週には採決を行うことが言い渡されていた。

「政権にとって都合のいい人物を検察のトップにつけられる後付けの法案が、国民に知らされないまま成立してしまう。このままでは民主主義がヤバい、と直感的に思いました」

 いても立ってもいられなくなり、翌8日には「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグと共にこうツイートした。

<右も左も関係ありません。犯罪が正しく裁かれない国で生きていきたくありません。この法案が通ったら『正義は勝つ』なんてセリフは過去のものになり、刑事ドラマも法廷ドラマも成立しません。絶対に通さないでください>

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法案成立見送りも、正直な感想は「もう疲れた」