南洋に避難しても、コロナの感染者がいるかも知れません。世界中どこに逃げてもコロナは追ってくるでしょうね。地球上で一番安全な場所はもしかしたら寂庵かも知れませんね。と言って寂庵に逃げて、セトウチさんに感染させてしまったら大変です。ひとりひとりは感染していなくても、数人が密になると、感染するという、その化学反応が僕にはよくわかりません。

 感染していない二つの家族で例えば飲み会をするとしますね。すると感染者が出る。これってどういう論理なんですかね。われわれ人間はもともと保菌者で、ひとりでは何も起きないけれど、他の人と結合すると突然化学反応を起こして細胞が増殖するみたいになるんですかね。もうひとつわからないのは政治家が密集しても誰も感染しないのは変だと思いません? 何か凄い国民の知らない特効薬でも使用しているのかしら。とにかくコロナと政治家は判らないことだらけです。もう寝ます。おやすみなさい。

■瀬戸内寂聴「牡丹咲く 寂庵こそ今の世では極楽浄土かも」

 ヨコオさん

 世の中はコロナ一辺倒で、人はみんな、マスクで顔のおおかたを隠し、美人もへったくれも区別がつきません。これでは、相思相愛好き同士でも、逢(あ)ってすぐキスすることも出来ず、色々不都合なことでしょうね。

 あの苦しい戦争を青春時代に、もろに味わってきた私たち世代にとっては、あの時代以上のこの世の苦はあるまいと思っていたのに、生きのびた人生百年の末に、またまた、こんな恐ろしい時代に投げこまれるとは、何という因果なことでしょう。

 コロナが収まった頃に何食わぬ顔して、どこか旅先から帰ってきて、「あれ、何かあったの?」など、すっとぼけた顔をしようなんて、とても許されませんよ。たいていのことには動じない厚かましい私も、外へも出られず、誰にも会わない生活なんて、ホトホト飽きて嫌になってきました。

 おっしゃるようにわが寂庵こそは、今の世では極楽浄土かもしれません。

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