淀川:ニコニコどころか、うれしくてひっくり返ってるね。いつもは六百円ぐらいの丼を食べるんだけど、その日は千五百円ぐらいのを食べるね。

(中略)

淀川:子供のころ、勉強しなかったけど、今まで生きてこられたのは映画を見てたからだよね。映画はいろいろなことを教えてくれるね。映画のセリフで「苦労よ来い。苦労がなかったら人間じゃない」というのがあって、いい言葉だなと思ってメモしたね。

林:先生、映画に夢中でご結婚なさらなかったんですか。

淀川:そうなの。そのころ映画の仕事なんてなかったから、食べていけるかわからないのね。それと僕、気が短いの。コーヒー飲みたいと思って十五分たっても出てこないとイライラして「もういい!」ってなっちゃうの。これじゃ結婚できないものな(笑)。

(中略)

林:でも、もったいないですね。淀川家の血が絶えてしまうのは……。先生には長生きしてもらわないと。

淀川:僕が死んだら、みんな手をたたいて踊るよ。宣伝部で僕に怒られない人、一人もいないのよ。だから僕のお通夜はドンチャン騒ぎよ(笑)。あのね、僕、来月死ぬんだよ。いまのうちにもっと聞くことない?

林:(考え込んで)えーと、あの、先生、失礼な質問なんですけど……。

淀川:失礼なのが好きなのよ(笑)。

林:お棺の中に入れてほしいビデオとか映画のパンフレットって何ですか。

淀川:あんたの写真だね。

林:まあ、先生ったら(笑)。お葬式で映画音楽を流してほしいとかあります?

淀川:そんなキザなことやめてください。「南無阿弥陀仏」ぐらいでいいよ。できたら葬式なしがいいね。生きてる間は頑張って頑張って、臨終の間際まで映画を見たいね。

林:その調子じゃ、百歳になってもお元気な姿が見られそうですね。

淀川:ありがと。でも四月十日に死ぬからね。これが僕の人生最後の対談だからね。

週刊朝日  2020年5月8‐15日合併号