――不倫について語られるとき、よく出るのが「一夜の過ち」。これはなぜ起きるのだろうか。

 パートナーへの責任感や共感を司って、ブレーキをかける機能を果たすのは、脳の前頭前皮質です。お酒を飲むと、この働きが鈍くなってしまう。いわばブレーキが千鳥足になり、目の前の相手が魅力的に見えちゃう状態でしょうか(笑)。

 また「吊り橋効果」もあります。好きではないと認知する相手と共に、危機を乗り越えたとしましょう。心拍が上がりますよね。すると脳が、身体の状態よりも認知を変更するほうが楽なので、認知のほうを変えるんです。身体は興奮している。認知は落ち着いているが、原因はこの人かもしれないから、この人のことを好きだということにしてしまおう、と。その結果、この人のことが好きだ、と認知が変更されてしまう。仕事などで危機を乗り越えたり大成果を上げたりすると、うっかり恋に落ちてしまうのはこのためです。

 恋は永遠ではありません。それを踏まえて、どういう関係を続けるのが良いのか話し合えばいいんですよ。隠れて不倫したり、不倫を責めるよりも、「そろそろお互いに好きな人ができるころだよね」「財布だけちゃんとしてくれれば、あとはいいわ」など、妥協点を探れば良いと思います。

 私の曾祖母は、親に決められた結婚をして子どもを産みました。そのうちの一人、私の大叔父は、他のきょうだいたちと容姿が違ったそうです。大叔父は、後に自分だけ父親が違う、不倫の末にできた子だと知って、自殺しました。生まれてきてはいけなかったと感じたのかもしれません。

 でも、これは彼の罪なんでしょうか? 節度を保つということは大人には求められることでしょう。しかし、そもそもそうは創られていない人間に、それを完璧に守り切れと押し付けるほうが無理があるのでは? 不自然な結婚の子は許されて、自然な好意の間にできた子が自ら死を選ばなければならない? まるで社会に殺されたようなものです。

 今、日本では年間16万件もの中絶が行われています。その中に、婚姻関係の外でできたであろう子もたくさんいるでしょう。婚外子をもっと大事に育てられる社会に変えたほうがよいのではと感じます。

 結婚して生涯その人と添い遂げる人生は、現時点での社会通念上は美しいかもしれません。でも生物学的には不自然です。社会のありようについて、そろそろ考えを改める時期が来ていると思います。

(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2020年4月24日号