「目は口ほどにものを言う」とはいえ、目だけ見ていて相手の発言がすべてわかるわけではない。
【写真】定例記者会見の冒頭、マスクを取りポケットにしまう吉村洋文知事
新型コロナウイルスの猛威で政治家たちも軒並みマスク姿だが、ちょっとした変化が起きた。大阪府の吉村洋文知事が記者会見の途中で聴覚障がい者のためにマスクを外したのである。
聴覚障がい者は、話者の口の動きを注視して言葉を読み取る「読唇」である程度、理解を深めている。話者の口元がマスクで覆われてしまうと、これが困難になってしまうのだ。
4月7日、府庁での会見で記者の質問に吉村知事が応えようとすると広報担当職員が近づき、小声で何やら伝えた。知事はうなずき、
「聴覚障害の方がわからないということですのでマスクを外します」
と、マスクを外してポケットにしまってから話し出した。会見場に障がい者がいたわけではなく、テレビ中継を見ていた人から府庁に電話で要望があり、協議して知事に伝えたという。
公益社団法人「大阪聴力障害者協会」(大阪市中央区)の日根真理さんは次のように評価する。
「コロナウイルス問題が起きてから、政治家の人もマスクをするので何を言っているのからわからず、吉村知事や市長(松井一郎大阪市長)に『記者会見ではマスクを外してほしい』と申し入れていました。この時期、政治家はマスクをするのもアピールでしょうが、吉村知事が外してくれたことに感謝したい」
コロナ騒動以来、「大阪と兵庫の往来自粛」で物議を醸すなど積極発言を重ねている吉村知事。「今後も安全対策をとってマスクを外して会見したい」とし、実践している。
一方、東京都の小池百合子知事は終始、マスク姿だが会見では手話通訳がいる。とはいえ、テレビなどは政治家の表情をアップにしがちで、通訳者が映らないことが多い。ちなみに大阪府はまだ、会見時の手話通訳を導入していない。
安倍総理は4月7日、緊急事態宣言の発表会見の際、記者にマスクを外している理由を問われ、「飛沫などが届かない距離だから」と説明した。広い部屋を使って、官邸記者たちと距離を置いていたこともある。9日には共産党の志位和夫委員長が、透明のアクリル板を記者との間に設置して会見を開いた。
政治家とマスク。彼らの発言がどれだけ国民のことを思ってのものなのか、まだまだ目が離せない。
(ジャーナリスト・粟野仁雄)
※週刊朝日オンライン限定記事