紗倉:そんな中で新たな出会いを求めるのは、高齢者の方にとって難しい問題だと思います。出会いがもともとない状況であったり、家から外になかなか出なかったり。若い人たちはSNSとかでつながりを持つことができるけど、その世代の方々にとっては、富雄のように過去の人に会おうと思っても、すごく難しいことだと思います。

田原:その意味で、富雄と文江の再会には意味があるね。

紗倉:はい。高齢者の方がときめくのはどういう女性なのかと考えました。AV作品では、若い女子大生と高齢者がセックスをするという設定がよくあるんですが、それは何か違うなと思ったんです。実際に心が揺れ動く恋愛をもう一度するとなったら、過去に出会ったことのある、または付き合ったことのある女性なのではないかと。

田原:年齢があまり離れていないことはとても大事だと思う。だってコミュニケーションできるわけだからね。あの時、あそこで、というのが全部通じる。年が20も30も離れていたら通じないよね。

紗倉:そうなんです。だから、話が途切れずに深められる相手と、昔のことを一緒に思いめぐらせることができるというのは大事な過程だと思っています。出会いのその先が性だとすれば、田原さんは性やセックスに対する思いは変わりましたか。

田原:富雄は70歳で文江とセックスするわけだけど、70代になって初めて出会った女性とセックスするのは、たぶん無理だと思う。一般的にはわからないけど、80代になると僕はセックスしたいとも思わないよね。

紗倉:新しい女性と恋愛をしたい、付き合いたいとか、触れ合いたいとかも?

田原:お付き合いはありますよ。学生時代の友人でね、再会した時に「(当時)実は大好きだったんだ」と。もちろん何もしてませんけど、今、2週間に一度くらい食事をしています。

紗倉:その方との出会いがなかったとしたら、田原さんは今、寂しかったと思いますか。

田原:でしょうね。それこそ、彼女は学生時代の友人だから出会えた。僕はね、彼女だけじゃなく、学生時代の友達とも年に2、3回くらい会っているんですよ。みんな会いたいと言う。それは、学生だったあの時代に帰れるから。見えとか何とか何もなく話ができるんです。

紗倉:昔のことを共有できることが、自分にとっての溝を埋める一番温まる道なのかもしれないですね。

>>【後編/田原総一朗×紗倉まな「高齢者も、もっと性とか性欲に正直になっていいの?」】へ続く

(構成/本誌・秦正理)

週刊朝日  2020年4月10日号より抜粋

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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