「たかが保険」とか「ウチはもめないから大丈夫」などと思ってはいけない。廿野さんによると、今後は遺言づくりではこうした遺留分対策が必要不可欠になるという。

「それこそ今回の改正です。以前は遺留分を満たすように請求されると、土地を共有することで遺留分を満たすことができました。先のケースのように、足りない分を金銭で解決する手法(価額弁償)は例外的とされていたのですが、昨年7月以降は原則的に金銭で解決することに切り替わってしまいました」(同)

 すると、どうなるか。遺留分不足を請求されてキャッシュがないときは、借金をするか自宅を売って現金を用意しなければならなくなるのだ。遺言どおりの相続ができないどころか、虎の子の不動産が人手に渡ってしまうことさえある。遺言づくりでは遺産の分け方も重要だが、ゆめゆめ遺留分対策を怠るべからず、である。

 もう一つのポイントは、せっかく相続方法を決めておいても、想定していた相続人が遺言者より先に亡くなった場合への対応だ。廿野さんが言う。

「ある資産家は、妻と子どもたちへの遺産分けを財産ごとに細かく定めていました。ところが、妻が夫より先に死亡してしまいます。本来はそこで遺言を作りなおす必要がありましたが、そのままにしていました。資産家が亡くなってからが大変でした。遺言で定めた妻の分の相続を巡って、子どもたちがもめにもめたんです。分割協議がまとまったのは相続税の納付期限の直前。大急ぎで遺産分割協議書を作ったことをよく覚えています」

 泥沼の「きょうだい争続」だったことがわかるが、長寿化で人生100年時代を迎え、相続人が先に亡くなるケースでは、さらなる難しい問題が生じてきそうだ。子どもが親より先に亡くなる場合である。

 例えば、財産を持つ100歳の父親に、同居する長男とその子どもである孫がいたとしよう。父親の子どもは、長女と次男もいて計3人だとする。

「長年同居して面倒を見てもらったので、自宅は長男や将来的にはその孫に引き継いでもらおうと、長男に自宅をあげる遺言を作ったとします。しかし仮に長男のほうが先に亡くなれば、遺言をそのままにしておくと、自宅は孫に行くとは限らなくなってしまうんです」(同)

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