帯津:なるほどそうですか。でも私がみているがん患者さんで、認知症の人はあまりいないなあ。認知症になるとストレスを感じなくて、がんになりにくいのかなあとも思っているんですよ

大井:もう一ついいところは、認知症が本当に進んでいくと、自分という意識がなくなっていく。そして死への恐怖もなくなってしまうように見えます。これは、最終末におけるひとつの適応とも考えられますね。非常に平静にニコニコしていられるんです。

帯津:おそらく認知症の人はあの世に行きかけているのかもしれないですね。この世とあの世を行ったり来たりしているわけです。

 そう考えると認知症も悪くはないかもしれないですね。ただ、できるだけ周りの人に迷惑をかける時間を短くしたいという気持ちはあります。そのうえで、最後は認知症で終わるのも悪くはないですね。それもナイス・エイジングのひとつかもしれない。

 今回、大井さんの話を聞いてそう思いました。ありがとうございました。

(構成/梅村隆之)

週刊朝日  2020年3月6日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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