イスラム教シーア派組織ヒズボラの追悼集会で飾られたイランのイスラム革命防衛隊・ソレイマニ司令官の写真 (c)朝日新聞社
イスラム教シーア派組織ヒズボラの追悼集会で飾られたイランのイスラム革命防衛隊・ソレイマニ司令官の写真 (c)朝日新聞社
日イラン首脳会談でロハニ大統領(左)を出迎える安倍晋三首相
日イラン首脳会談でロハニ大統領(左)を出迎える安倍晋三首相

 イランが米国への報復措置として、米軍が駐留するイラクの基地などを攻撃し、緊張が高まっている。これ以上の事態悪化を望んでいないというのが両国の本音とみられるが、偶発的な衝突で紛争に発展する懸念はくすぶったままだ。今後のシナリオを探った。

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「令和のオイルショックが起きるのか──」

 1月8日、米軍が駐留するイラクの基地などに対し、イランが十数発の弾道ミサイルを撃ち込んだ、との速報が流れると、日本の市場関係者の間では、そんな言葉がささやかれた。

 一報の直後、株式市場は大きく値を下げ、原油価格は跳ね上がった。もし、全面戦争といった局面になれば、株や為替などの金融市場の混乱は避けられず、日本経済も大きな打撃を受ける。緊迫した時間が続いた。

 9日未明(日本時間)、トランプ大統領は「イランに対して追加制裁をする。米国が保有する(軍事)装備を使いたいとは考えていない」などとする声明を発表。即座に戦争という局面は避けられたが、再び火がつかないとも限らない。

 この先、どんなシナリオが待っているのか──。

 最初に仕掛けたのは米国だった。3日、イラクの首都バグダッドでイラン革命防衛隊の対外工作を担う「コッズ部隊」のソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害した。イランの最高指導者ハメネイ師は、「(米国は)厳しい報復を受けることになる」と予告していた。

 軍事評論家の前田哲男氏はこう指摘する。

「軍事力には圧倒的な差があるにもかかわらず、イランは正面から報復措置を取りました。米国はイランの軍事関連施設や文化財など計52カ所を狙うなどと第2波の攻撃にも言及していました。それだけに、これほど本腰を入れた攻撃をしてくるとは予期していなかったのではないか」

 ソレイマニ氏は、イラクやシリアで活動する過激派組織IS(イスラム国)掃討作戦で大きな役割を果たした国民的英雄だった。出身地のケルマンで執り行われた葬儀には数百万人の市民が集まり、殺気立った群衆は「米国に死を!」と声を張り上げた。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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