袖からじっと客席を見ているとたいがい誰かと目が合うものだが、みな真っ直ぐに集中してるのでそんなこともなく自分の出番。演目は「子ほめ」。腹抱えて笑ってくれた。こないだ行った岡山のまるで笑わない某高校の生徒、いっぺんここに来い。笑えるようになるから!

 生徒代表のしっかりした御礼の言葉のあと、私の挨拶。「身体に気をつけてね」くらいしか言えなかったけど、慰問のエキスパート・桂才賀師匠は以前「今度はお互い精進して……刑務所でお会いしましょう!」とやったんだって。そしたら生徒も先生も爆笑。笑わないよ、普通。そこを笑わせちゃうシャレっ気が本当の慰問なんだな。

 窓に鉄格子のある体育館で紅白幕がやけに映えた一日でしたとさ。

週刊朝日  2019年12月20日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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