落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「紅白」。
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11月11~20日に落語協会の一行で『寄席普及公演』に行ってきた。地方の皆さんにも『寄席』ってこんなところですよー、というのを知ってもらおうと、落語だけでなく、太神楽曲芸や紙切り芸もセットになった出張出前寄席だ。入場料を頂く一般公演もあれば、学校公演もある。お客様の多い少ないにかかわらずいろんなとこでやらせてもらった。
島根→岡山→高知→佐賀→沖縄→長崎→福岡。飛行機とワゴンを乗り継ぎ、19日は某少年院での公演。私は初・少年院。門をくぐると奥に白色の巨大な塀、その上部には内側に傾けてワイヤーが何本も張ってある。やっぱり学校とは違うなあ。院長先生に挨拶。「昔はよく脱走騒ぎがありましたが、今はまるでありません。ここの生徒は比較的いい子ばかりなんですよ」。いい子ならこんな所には来ないのでは?とも思ったが少年院にもランクがあるらしい。九州でちょっと(?)悪いことをするとまず呼ばれるのがここ、だそうな。
会場は体育館だった。壁には紅白の幕が張り巡らされていて、さながら入学式か卒業式のおめでたい雰囲気。少年院にも紅白幕があるのね。先生方が一生懸命に高座のセッティングをしてくれている。ある先生が「この幕で良かったですかね?」。「バッチリですよ!」。会場にあるものでそれなりに笑い易い雰囲気を作っていくのが大切だ。紅白幕、いいじゃないか。
移動中、廊下で面会の家族とすれ違う。向こうは、なんだ? この騒々しい一団は!?と思ったことだろう。「ちょっとお静かに」と先生にたしなめられた。面会に来てくれる親族がある生徒もいれば、なかなか難しい子もいるという。よしきた、笑ってもらいましょう。
「今日はおおいに楽しんでください! それでは開演です!」という先生の合図で出囃子が鳴ると14~20歳の総勢60名が割れんばかりの拍手で迎えてくれた。開口一番は二つ目の柳亭市弥くん。舞台袖の紅白幕の隙間から覗いてみると、みな背筋をピンと張って両手を膝に置き、前のめりになって聴いている。「初めて落語聴く人?」という市弥の問いに全員がピッと手を挙げた。まだあどけない顔立ちの子も緊張気味に挙手。市弥がほぐし、紙切りの林家正楽師匠からケラケラと転がるように笑いが止まらなくなる。「切って欲しいご注文は?」に「ランボルギーニっ!」という元気な声。うん、どこか少年院らしい。車、大好きか? 外に出たら安全運転で頼むよ。