東京ドームで11月25日にあったミサには、死刑が確定し再審請求中の袴田巌さんも招待された。袴田さんは獄中で洗礼を受けカトリック信者となっている。教皇は死刑に反対しており、死刑を維持している日本政府との立場の違いは鮮明だ。

 このように、教皇の主張と現実の政治との間には溝がある。それでも、13億人の信者を抱えるローマ・カトリック教会のトップとして、政治的なテーマについて発言を続けてきた。原発や核兵器など民衆の関心を集めやすいテーマについて訴えることは、聖職者による性的虐待などの不祥事で低下した教会の威信を高めることにもつながる。

 教皇の影響力は宗教分野にとどまらず、世界の政治にも及ぶ。そのみなもとは信者の圧倒的な支持だ。フランシスコ教皇は、同性愛や離婚に柔軟さを示す改革的な姿勢もあって、世界的に人気が高い。

 長崎県営野球場(長崎市)で11月24日にあったミサには約3万人が集まった。信者たちは特別車で登場した教皇に親しみを込めて、「パパさまー」と大声援を送った。来日記念オフィシャルグッズのTシャツ(税込み3300円)やキャップ(2750円)なども飛ぶように売れた。

「教皇さまを直接見られるまたとない機会に感動しました。ミサへの参加は無料なので、何かできることはないかと思ってロゴ入りのキャップを買いました」(横浜市から参加した女性)

 グッズの売り上げの一部は、日本カトリック司教協議会を通じて献金され、今回の来日テーマである「すべてのいのちを守るため ~PROTECT ALL LIFE~」の活動に使われるという。

 東京ドームのミサには約5万人が集まった。ドームの外の公式・関連グッズ販売窓口には長蛇の列ができた。参加した女性によると、午後3時30分のミサ開始前に売り切れるものが続出したという。

 オフィシャルグッズはTシャツやキャップのほか、クリアファイル(550円)やブックカバー(1100円)、アクリルキーホルダー(550円)など、様々なものが用意されていた。在庫があるものはネットを通じて今後も販売される。

 ローマ・カトリック教会の教皇の来日は、1981年の故ヨハネ・パウロ2世以来、38年ぶり2度目。フランシスコ教皇は11月25日には天皇陛下と会見し、安倍晋三首相とも会談。官邸では安倍首相や各国大使館の代表らと懇談し、核兵器の廃絶を改めて訴えた。11月26日には東京の上智大学を訪問し、日本を離れる。

 世界に向けたメッセージを出し、多くの人から大歓迎された今回の来日は、歴史に残るものになったようだ。
(本誌・多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事