長崎市の爆心地公園では11月24日、「ここは核兵器が人道的にも環境にも悲劇的な結末をもたらすことの証人である町です」と述べ、「核兵器に関するメッセージ」を発表した。

「核兵器のない世界が可能であり必要であるという確信をもって、政治をつかさどる指導者の皆さんにお願いします。核兵器は、国際的また国家の安全保障への脅威から私たち守ってくれるものではない、そう心に刻んでください。人道的および環境の観点から、核兵器の使用がもたらす破壊を考えなくてはなりません。核の理論によって促される、恐れ、不信、敵意の増幅を止めなければなりません」

 広島市の平和記念公園では同日、「平和のための集い」で演説した。

「確信をもって、改めて申し上げます。戦争のために原子力を使用することは、現代において、犯罪以外の何ものでもありません。人類とその尊厳に反するだけでなく、私たちの共通の家の未来におけるあらゆる可能性に反します。原子力の戦争目的の使用は倫理に反します。核兵器の保有は、それ自体が倫理に反します。これについて、私たちは神の裁きを受けることになります。次の世代の人々が、私たちの失態を裁く裁判官として立ち上がるでしょう。平和について話すだけで、関係する国々との行動をなにも起こしませんでした。最新鋭で強力な兵器を製造しながら、平和について話すことなどどうしてできるでしょうか。差別と憎悪の演説という役に立たない行為をいくらかするだけで自らを正当化しながら、どうして平和について話せるでしょうか」

 こうした発言の背景には、米国とロシアの中距離核戦力(INF)全廃条約が失効し、中国や北朝鮮も核兵器に注力するなど、世界的な軍拡競争がある。外交の分野では、核兵器による壊滅的ダメージを双方が避けようとする「恐怖の均衡」によって平和が保たれているとの見方が根強い。

 日本政府も米国の「核の傘」を安全保障のために利用してきた。菅義偉官房長官は11月25日の会見で、核抑止力は必要だとの見解を示した。

「我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中で、核抑止力を含む抑止が安全保障を確保していく上での基礎であることに変わりはない。防衛力を強化しながら日米安保体制のもとで核抑止力を含めた米国の抑止力を維持・強化していくことは、我が国の防衛にとって現実的で適切な考え方だ」

 オバマ前米大統領は「核なき世界」を訴えたが、いまのトランプ米大統領は核兵器への依存を強める。中国や北朝鮮も核兵器を誇示するなか、トランプ政権に配慮する日本政府としては、教皇のメッセージをそのまま受け入れることはできないようだ。

次のページ 改革的な姿勢もあって世界的に高まる人気